ドーパミン中毒「脳内麻薬」ドーパミンが依存症へと駆り立てる
アンナ・レンブケ (著)
精神科医でありスタンフォード大学医学部教授
依存症医学の第一人者
かつて著者自身も依存症を経験したことがある
衝動的に何かを過剰摂取してしまうことをどうやったら止められるのか。
本書は快楽と苦痛のバランスを見つけるお手伝いをしてくれます。
💬 全9章で構成されていますが、第1~2章は著者が診察した患者さんの実態が具体的に書かれています。この具体例が日本人にとっては馴染みのない内容であり、かえって理解を妨げる可能性があります。本書の核心は第3章の「快楽と苦痛のシーソー」にあるといっていいでしょう。そこで、「快楽と苦痛のシーソー」と対処法を中心にまとめていこうと思います。具体例に関しては興味のある方は実際にこの本を手にとって読んでみてください。
【快楽と苦痛のシーソー】
●ニューロン
脳内で主要な機能を担う細胞はニューロン(神経細胞)と呼ばれています。
野球に例えると、シナプスを中心にして前側のニューロンがピッチャー、後ろ側のニューロンがキャッチャーとなります。ピッチャーとキャッチャーの間で投げられるボールのように電気信号を調節する科学的メッセンジャーが神経伝達物質ということになります。
●ドーパミン
神経伝達物質の中で最も重要な報酬処理にかかわっているのがドーパミンです。
ドラッグを使うと脳内の報酬回路(腹側被蓋野と側坐核と前頭前野を繋ぐ回路)にドーパミンが放出されます。放出されればされるほど、また放出が早ければ早いほどそのドラッグは依存性が高いということがわかっています。ドラッグは脳の報酬回路にドーパミンが多量に放出される引き金となるのです。
●自己調整メカニズム
ドーパミンの研究の中で快楽と苦痛を処理する脳の部位が重複していることが明らかになっています。
快楽と苦痛はシーソーのように働くのです。
快楽を感じると報酬回路にドーパミンが放出されシーソーは快楽の側へ傾きます。
しかしこのシーソーはなるべく水平を保とうとする働き(自己調整メカニズム=ホメオスタシス)があります。この働きは意識的な思考も意思の作用も必要としない。ただそうなるのであって反射のようなものです。
その後、水平になるとそのままシーソーは動き続けて快楽のときと同じ分だけ苦痛の側へ傾きます。
昔の人がよく言ったように、いいことがあれば必ず悪いことがやってきます。
●耐性(神経適応)
似たような快楽刺激に繰り返しさらされていると、快楽のシーソーの最初の傾きが弱く短くなる一方で苦痛への側への偏りは強く長くなってしまいます。
前と同じ効果を得るのにより多くの刺激が必要になり、同じ量の摂取でより少ない快楽しか感じられなくなる「耐性」は依存症発症の重要な因子となります。
快楽を感じる能力が下がり、苦痛の感じやすさが上がるようにシーソーの支点の位置が変化してしまうのです。
💬 とても恐ろしい内容が書かれています。実生活の中ではここまで単純には語れないと著者は書いていますが、それぞれが自分好みの「ドラッグ」を持っているということです。私たちが付与する意味によっても苦痛と快楽は大きく影響されます。
それでは衝動的に過剰摂取をしないためにはどうしたらいいのでしょうか。
【ドーパミン断ち】
ドラッグの過剰摂取の問題について医師が患者さんと話をするために開発されたフォーマットがあります。覚えやすくするために頭文字をとってDOPAMINE(ドーパミン)と呼んでいます。
データ(data)のD
単純な事実を集めるところから始める。何を、どれくらいの量で、どれくらいの回数か。
目的(objectives)のO
高ドーパミンの物質や行動を人は、ありとあらゆる目的のために使う。楽しむため、溶け込むため、退屈を紛らすため、恐怖、怒り、不眠、うつ、痛み、社交不安・・・本人にとってどんな必然性があるのか確かめる。
問題(problems)のP
高ドーパミンの物質を使用することで、出てくる問題を探り出す。
節制(abstinence)のA
断つことは、ホメオスタシスを回復させるためには欠かせないことだが、依存の対象物によって禁断症状は異なる。観察を続けながらドーパミン断ちを提案する。
マインドフルネス(mindfulness)のM
禁断症状がもたらす不安について心の準備をしてもらう。マインドフルネスとはどんな考えや感情を持っているか、どんな感覚があるか自分を外から観察すること。
洞察(insight)のI
断つというのはシンプルだが、続けていたら絶対に得られない気づき(洞察)を与えてくれる。どのような気づきがあったのかを聞く。
次の段階(next steps)のN
次はどうしたいのか?と問いかけてみる。一度「断った」ものを使用量を減らしてまた使ってみたいというケースもある。制御しながら使うことができる人もいる。
実験(experiment)のE
ドーパミンの設定を新たにして「快楽と苦痛のシーソー」が水平になったならば、それをどう維持するかという計画を立てる。
こうやって試行錯誤を重ねる中で、何がうまくいって何がうまくいかないのか見極めていく事が必要です。
💬 とはいえスマートフォンなどは私たちの生活の様々な場面に必要なものであり完全に断つことは難しいでしょう。ほとんどの人が自分がデジタル機器に依存しているなどとは思わずに生活しているはずです。そのためにデータや観察が必要なのだとは思いますが、どうやって節制したらよいのでしょうか。次はセルフ・バインディング(自分を縛る)についての解説になります。
【セルフ・バインディング】
強力な衝動の魔法にかかっているときには、自発性など失われるものだと認めることがまず第一歩。
そして次に、自分と自分がハマっているものの間に具体的な壁を意図的に、自ら進んで作ることによって欲望と行動との間で一時停止ボタンが押せるようになっていくのです。
セルフ・バインディングの戦略は3つあります。
①物理的戦略(空間)
- 物理的に障壁を作り近づけなくする
- 薬を使う
- 解剖学的に体を変えてしまう(胃のバイパス手術などで体重を減らす)
- アルコールなどの保存場所に鍵をかける
②時系列戦略(時間)
- どのくらいの時間を摂取行動に費やしているかを追跡することで自覚をもたらし、接種を緩和する
- 時間制限とゴールを設け摂取する時間の幅を狭めて使用量を減らす
- 誕生日まで、昇進したら、など自分が決めたゴールに達したら摂取する
③ジャンル戦略(意味)
- ドーパミンを種類別に分けて摂取量を制限する
💬 このように壁を作ることは息苦しい印象がありますが、実際には多くの方が自由を感じるとのことです。衝動的な過剰摂取から解放されて再び他人と自発的に交流することができるようになるからという説明があります。
この後は壊れてしまったシーソーを水平に戻す薬の解説が続きます。日常的に日本人にとっては馴染みのない薬品名や事例が続きますのでこの部分は割愛します。
次は苦痛についてです。
【苦痛の追及】
●苦痛の側に力をかける
最初に苦痛を受けることで快楽の側にシーソーを傾けさせようと試みる人たちがいる。
冷水浴、断食、激しい運動、このように断続的に苦痛にさらされることによって、苦痛を感じにくく快楽を感じやすくさせるのです。
断続的な断食は、ダイエットや健康増進の手法として近年は人気になり、運動は気分をポジティブにする多くの神経伝達物質などを増加させることが明らかになっています。
しかし苦痛を求めるのは快楽を求めるよりも難しいものです。それは苦痛を避け快楽を追い求めようとする人間の自然な傾向に反するからです。
●苦痛への依存
冷水浴は、冷水に入ったときの最初のショックが強ければ強いほど、出た後の高揚感が大きくなります。
エクストリーム・スポーツと呼ばれるスポーツ(スカイダイビング、ハングライダー、ボブスレーなど)も強烈な恐怖が強力なドラッグとなり、脳の報酬回路のドーパミン放出が増加し、薬物で見られるのと同じ脳の変化が作り出されることが明らかになっています。
スカイダイビングを繰り返しやってきた人は、その後の人生で無快感症、すなわち喜びの欠落を経験することが多くなることがわかっているのです。
あまりにも多量に、あるいはあまりにも強力な苦痛を求めると苦痛依存症になるリスクが高まるということです。
●仕事への依存
仕事を一度始めるとやめるのが難しくなる。このように深い集中に入る「フロー」と呼ばれる状態はそれ自体がドラッグであり、ドーパミンを放出し、高揚状態を作り出します。
ワーカホリックは社会の中で称賛されることが多く、高い報酬を得ることもできますが、友達や家族との親密な繋がりから私達を切り離す罠にもなり得るのです。
💬 断続的に苦痛にさらされることで、快楽を感じやすくなるという考え方は非常に面白い。自分は進んで苦痛を求めることなどしないと今までは考えていましたが、具体例を読み進めると、ファスティングやフロー状態などは心当たりのある内容でした。適量だけならばこのような行為も癒しになり得る。それならば、依存しないように趣味も一つだけに集中しないよう心掛けることが大事になると感じました。
最後は、正直さと親密さ、他者との関わり方になります。
【正直さと親密な人間関係】
真実を語ることは脳を変化させ、快楽と苦痛のシーソーのバランスや衝動的な過剰摂取を自分に意識させることになり、私たちの行動を変えていきます。
また真実を語ることは人と人とを近づけ、その親密さ自体がドーパミン源となります。
恋に落ちることや母子の絆を作ることは、オキシトシンというホルモンがドーパミン神経細胞の受容体に結合して、脳内にドーパミンを増やします。
ドーパミン製品の衝動的な過剰摂取は愛着とは正反対のもの、孤立や無関心をもたらすことになります。なぜならば、ドラッグが他者との関係性で得られる報酬の代わりになってしまうからです。
💬 サラリと読んでしまいそうな内容ですが、前段でのワーカホリックを考えると納得しかありません。
【結論】
私たちは皆、解放されたいと望んでいる。
自分自身の容赦なき反省会から一時的にでも解放されたいと思うのは自然なこと。
だから私たちは快楽を与えてくれるもの、今自分に利用できる逃避グッズのどれかに引き付けられる。
しかし、依存性のある薬や嗜好品や行動は、一時的な開放感を与えてくれるが長期的には問題を増すばかり。
シーソーの良いバランスを見つけ維持することで得られる報酬は、すぐ得られるものではないし、永続するものではない。
忍耐とメンテナンスが必要になる。
それでも、どうか、あなたに与えられた人生にどっぷり浸かる方法を見つけてほしい。
●シーソーの教訓
- 快楽の飽くなき追求(そして苦痛からの逃避)は苦痛に導く
- 回復はそれを「断つ」ことから始まる
- ドーパミン断ちは、脳の報酬回路をリセットする
- 苦痛の側にシーソーを押すことはシーソーを快楽の側へリセットする
- 苦痛の依存症にならないように気をつけよう
💬 幹の部分だけを抜粋して、具体例を飛ばして「まとめ」をしました。もしかしたら意味が通じにくい部分があるかもしれません。近年の研究で神経伝達物質や脳の機能など様々なことが明らかになってきました。ドーパミンという言葉を耳にすることが多くなり本書を読んでみましたが、非常に怖い事例が多いことがわかりました。日本は中高校生が簡単にドラッグを手に入れられる環境にはないので心配はないと思いますが、薬物以外にもたくさん身の回りに刺激はあるのです。
💬 著者も触れていますが、哲学などで古くから説かれていることは現代社会でも説得力があり、脳科学や神経科学で明らかになった諸々を考え合わせても納得できる言葉が多いと思いました。哲学はエビデンスがないと言われていますが様々な研究結果と合わせて学ぶことで理解が深まっていくような気がしています。
💬 本当に具体例の多い本ですが精神科医のカウンセリングの場面は衝撃的な内容も多いため、飛ばし読みをしてもいいと思います。最初の部分を読んで放り出してしまうのは勿体ない内容です。興味を持たれたかたはぜひチャレンジしてみてください。
🎀過去の投稿でもドーパミンに触れているものがありますので参考にしていただければ嬉しいです
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