追熟読書会: 読書する脳【毛内拡】

読書する脳【毛内拡】


 

脳の研究をされている毛内先生が読書のメリットをわかりやすく科学的に解説している本です。

とてもわかりやすく書かれていますがページ数のわりに内容が盛沢山な印象です。
脳の構造に関してはもっと詳しい先生の別書がありますので、今回は軽く触れる程度で進んでいきます。

興味を持った点を3つに絞って引用・要約を示しながらまとめのような感じで書いて、それそれに私の勝手な感想を添えていきます。💬 のマークの部分が感想です。



 ①読書が脳の休息になる仕組み 


・認知バイアス

脳の基本的な性質の一つに省エネ設計というのがあります。エネルギー消費を抑えるため複雑で認知的負荷が高い作業を避けてより簡単な方法で判断や意思決定を行おうとします。過去の経験や直感を利用して手軽に判断を下すための思考の近道のことです。ヒューリスティックと言われています。

ヒューリスティックは、情報量が多く複雑な状況でも素早く判断できる点で非常に有効な仕組みです。しかし、このプロセスはしばしば認知バイアスと呼ばれる偏った判断や誤解を引きおこすことがあります。

認知バイアスは情報が膨大で迅速な判断が求められるデジタル環境下で起きやすくなります。絶え間ない刺激にさらされ続けると脳は徐々に疲弊していき、複雑な情報を処理することを避けるようになります。


・反芻思考

メンタルが病んでいるというと脳が怠けていると思われがちですが、むしろ過剰な活動によって消耗し、本来の能力を十分に発揮できなくなった状態であると理解することが重要です。

脳が慢性的に過活動状態となり、疲弊しやすくなる原因として反芻思考が考えられます。

DMN(デフォルトモードネットワーク)と言われている脳のアイドリング機能ようなものがあります。特定のタスクに注意を払っているときではなく、むしろ安静時やぼんやりしている時間において活発になるのがDMNの特徴です。

DMNが過剰に働くと思考がネガティブな方向に向かい、過去の後悔や将来の不安がぐるぐると渦巻いてくる、いわゆる反芻思考を引き起こします。


・読書が脳の休息になる仕組み

情報があふれる現代社会だからこそ、意識的にDMNの暴走を沈め脳を休ませてあげる必要があります。そのための有効な手段の一つが読書です。

私たちが、本の内容にぐっと集中すると脳は巧みに運転を切り替えてDMNの活動を抑え、反芻志向の負のスパイラルから解放されます。

読書を通じて、ゆったりと深く物事を考える時間は脳の活動を和らげるため、私たちの認知機能や脳の健康を守る上で不可欠なものなのです。


・読書は認知症予防になる

日常的に読書を行うことは加齢に伴う認知機能の低下を緩やかにし、より長期間にわたって脳の健康を維持することに寄与するようです。

脳に病理的な変化や損傷が生じても、それらをカバーする「認知予備力」と呼ばれている能力があり、読書による高い言語能力が認知症の発症しにくさと関連があるとのことです。


💬 この部分は、第2章の「読書がもたらす脳科学的メリット」のまとめです。ドーパミンの作用やフィクション(物語)の役割など多くの情報が詰まっています。その中でも一番面白いと思った部分にフォーカスして書いていますので、詳細を知りたい方は実際に本を手に取って読んでみてください。
 
DMNが活性化して思考があちこちにさまよう状態のことを、毛内先生は退屈な授業中にふと週末の予定を考えてしまった経験を例に出して説明されています。
 
私は単調で習慣的に行う家事のときに思考のさまよいが始まります。特に掃除や食事の後片付けをしているときなどは過去の後悔だったり怒りが蘇りやすいように感じます。この反芻が始まったときの対処法として私は「実況中継」といわれている方法を実行しています。今、自分が行っていることを心のなかで実況するのです。料理教室の先生のように説明しながら家事をするというような方法です。

もう一つの方法として「聴く読書」も有効です。聴く読書に関しては第3章に説明があり紙の読書とは脳の活性化する部位が違うとのことですが、家事の途中で発生するネガティブな反芻思考から抜け出すのに最適なことは実証済みです。重すぎない謎解きミステリやコミカルなライトノベルを選んでストーリーを追いかけていると効果があります。

聴く読書に関しては、私が要約筆記者であることも関係していると思います。長時間の講演などにライブで字幕を付ける活動をしていますので、常に集中して聴く練習をしているのです。すべての方に聴く読書が有効なわけではないでしょう。興味が「聴く」ことに向いているからこそなのかもしれません。

この章は読書にリラックス効果があることを示す研究結果が書かれているなど読書好きを喜ばせる内容が続いています。

 


 ② 読書がもたらす「快感」の正体 


・表意文字と表音文字

日本語を母語として育った私たちは、非常に特殊で恵まれた脳の仕組みを身につけていると言えます。日本語を使うこと自体が非常に高度な脳のトレーニングになっています。

文字は表意文字と表音文字の2種類に分類できます。

表意文字とは、文字そのものが意味を持つタイプの文字で、その代表は漢字です。

漢字を読むときには、脳の意味を理解する場所が活性化します。音を経由しなくてもその文字の意味やメッセージに直接アクセスできるということです。

表音文字は音を表すタイプの文字で、アルファベットやひらがなカタカナがこれにあたります。音声の処理や単語の発音に深く関係している脳の領域が活性化します。

仮名交じり文を読むときには、意味を直接的に処理する回路と、音を経由して意味を理解する回路を同時にかつ非常に柔軟に切り替えています。


・読書の効果の鍵は「能動的なプロセス」

読書は文字情報だけを通じて、条件や人物、感情などを自らの脳で想像し、意味を「能動的に」組み立てる必要があります。この過程で高度な推論、想像力をつかさどる領域が活発に活動し内側からじわじわと湧き上がるような喜びや達成感を感じます。

映画や動画を見ているときは大量のドーパミンを瞬間的に放出させます。読書もドーパミンが放出されますが読書がもたらす報酬の特徴はその質にあります。自発的に理解やイメージを作り出すことで得られる持続的で深い充足感(内的報酬)を生み出すのです。

このように、自らが能動的に脳を動かすことで生まれる達成感こそが、読書特有の価値であるといえるでしょう。

※ドーパミンは神経伝達物質です。脳内の報酬系という回路において報酬を予測し、その報酬を最大化するための行動を促す役割があります。ドーパミンの作用によって新たな情報を積極的に追い求めたり環境の変化に敏感に反応したりします。


💬 この部分は、第3章の「文字と言語処理のメカニズム」のまとめになります。話し言葉としての日本語の力や聴く読書、字幕付きの動画や映画のことなども書かれています。非常に興味深い内容ではありますが、要約筆記者として活動している私にとっては普通の方と違う感覚を持っていますので、これに関するレビューは差し控えたいと思います。

一番興味を持って読んだのはドーパミンです。読書でなければ得られないものとして心理描写があります。また、自分の好きな俳優さんの声に置き換えて読んでみたりして主人公が自分の中で確立されていく過程が醍醐味でもあります。読書好きであれば当たり前のように感じていることにドーパミンが関係してくるとは思いもしませんでした。

ドーパミンと聞くとネガティブな面にも目を向けてしまいますが、内発的な達成感によって活性化される脳の報酬系は安定性や認知的充足感をもたらすそうです。パズルを解いたり、難しい知識を理解できたりしたときに感じる充足感が、読書体験に良く似ているということです。

これは謎解きミステリーには癒し効果があるという私の理論を裏付けてくれているのではないかと思いますが・・・次章は都合のいい情報ばかり集めてしまう認知バイアスの話です。 

 


 ③ 読書中のセルフトークに注目  


確証バイアス

脳はエネルギー消費を最小限に抑えるために自分に都合の良い情報を優先的に処理することがあります。この現象を心理学では、確証バイアス(認知バイアスの一種)と呼んでいます。

こうした脳のバイアスは読書という知的な活動中にもよく見られます。自分の意見や考え方を補強してくれる部分に対しては自然と注意が向き熱心に読む一方で、異なる視点や批判的な情報からは無意識に目をそらしてしまいます。

このようなバイアスの背景には、情報のフィルタリングや「脳の注意ネットワーク」が存在します。

脳の注意ネットワークは、警戒系、定位系、実行系という三つから構成されています。
警戒系は注意の覚醒度や準備状態を調整します。定位系は感覚刺激がどこから発生しているかを特定します。実行系は優先順位を決定し不要な情報を抑制します。交通整理のような機能といっていいでしょう。

私たちが読書や作業に集中できるのはこの三つの注意ネットワークがうまく連続して働いているからです。確証バイアスは実行系ネットワークが自分に都合の良い情報にのみ注意を向けている状態です。

脳は外から入ってきた新しい情報を自分がこれまで蓄えた記憶や知識をもとにした予測モデルと照らし合わせながら処理しています。

私たちが現実と呼んでいるものは客観的な世界そのものではなく、一人ひとりが持っている独自の予測モデルに大きく影響を受けている世界なのです。

予測モデルは、脳が持つ「経験の蓄積と再構成」という仕組みが根幹を支えています。注意すべきは記憶は単なる記録ではなく、思い出すたびにその都度再構成され生成され直しているという事実です。


・セルフトーク

セルフトークとは自分自身に向けて心の中で語りかける「内なる言葉」です。このセルフトークこそが私たちが本からどのような価値を受け取り、それが私たちの精神状態や行動にどう影響を与えるかを決定する重要な鍵となっています。

その中でも特に重要なのがポジティブセルフトークです。自己肯定的な言葉や建設的な問いかけ、または感謝や満足の表現といった自分を前向きに支えるような語りかけのことを指します。

ポジティブセルフトークは脳の報酬系を刺激し、それに伴いドーパミンが放出されることがわかっています。幸福感や安心感に関連する他の神経伝達物質の分泌も促すと考えられています。これらが協調して作用することでより安定した精神状態や幸福感をもたらします。

逆に、ネガティブセルフトークで脳がストレス状態に陥ると、思考や判断、注意力をつかさどる機能が低下し、読書に必要な集中力や内容理解力が損なわれます。また、読書中に見た情報を必要以上に悲観的に解釈する傾向が強くなります。ストレスホルモンの分泌は血圧や心拍数にも影響してきます。

自分自身のネガティブな感情や思考から脱却する習慣を身につけることによって、外部の状況や他者の評価に振り回されることなく、内面から湧き上がる自分の感情を心の拠り所にすることができます。これが精神的自由を得るということです。

ネガティブセルフトーク・・・どうせ読んでも自分にはわからない。何も変わらない等。
ポジティブセルフトーク・・・わからない、でも焦らずゆっくり理解していこう。知識を得ることができてよかった。勉強になった。今日もきっと新しい発見がある等。

読書という行為はポジティブセルフトークを意識的に活用する絶好の機会を提供してくれています。


💬 この部分は、第4章の「認知バイアスとセルフトーク」のまとめになります。注意ネットワークや脳の仕組みの根幹に入っていきます。ドーパミンは実にさまざまな行動に関係していることが本書を読むとわかります。やる気スイッチや中毒性という点にだけこだわるのではなく、ポジティブセルフトークを活用して上手く付き合っていくことが大切というなのでしょう。

私たちが現実と考えている世界については哲学的な背景で語られることが多いのですが、本書のように脳科学の視点から考えるとシンプルで分かりやすいと感じました。

記憶の再構成については別書でも読み、いろいろ考えましたが非常に重要なことだと思っています。自分にとって自分の人生とはまさにこの記憶の積み重ね、再構成が根底にあるのだと再認識しました。

 

本書はこのあとも第5章「脳が喜ぶ読書術」、第6章「読書がもたらす共感力と社会性」と続きます。

第5章では読書の効果を高める方法として読書メーターが紹介されています。10年以上前から読書メーターを利用し1000件以上のレビューを書いてきた私にとっては非常に嬉しい内容でした。

最後になりますが、読書スタイルについて触れておきたいと思います。 

本書では読書離れについて詳細なデーターをもとに解説しています。結論から言うと文字離れではなく「読書スタイルの変化」ということに尽きるようです。

私はほとんどの本を電子書籍で読んでいます。家に居ながらにして夜中でも早朝でも読みたいと思った瞬間に購入して読める電子書籍は本好きにとっては欠かせないアイテムだと感じます。

また、ある程度の年齢になると目が疲れるという理由から読書をしなくなる人が多いのですが、フロントライト方式の読書専用端末は紙の本より目が疲れにくく、字も大きくして読めるので便利です。

海外ミステリを読むときは、うっかり読み飛ばしてしまったエピソードをキーワードで探し当てたりすることもできます。

kindleには、主要な登場人物のリストとその人物が本の中でどのように登場するか(どのページか)を確認できる「X-Ray機能」があります。

すっかり今では電子書籍が当たり前になりました。

第1章で紙の本と電子書籍のメリットとデメリットの説明もありますので参考にしてみてください。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

読書に関するさまざまなデータに触れて思うことは、読書好きで本当によかったということです。


以前、「愚かものの哲学」のレビューの中で三枚の世界像のことに触れたことがあります。本書に書かれている内容は、まさに二枚目の世界像を形成するために必要なエキスだと思いました。各人が持つ世界像が読書によって大きく変化していくことは間違いありません。

・一枚目の世界像は、親から与えられ、いつの間にか内面化していったルール、学校で教えられる一般的なルール、などが作り上げた自然な世界像のことです。
・二枚目の世界像は、大学で学んだり読書によって新しい世界観や理念に出会うときに掴む世界像です。文学や芸術などの教養的世界であったり、これこそ真実だと思える強い自我理想だったりします。
・三枚目の世界像は、二枚目の世界像を超えてまた別の世界像があり得ることを知ったときにやってきます。



 









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