ウイリアム・グラッサー著選択理論の基本の書(応用編)
第三部 応用編
第12章 地域社会への応用
洪水、地震などの害を被ったときにはいつでも支援の輪が広がる。このとき上質世界にあるのは彼らを助けることだけである。見知らぬ人には何も期待しないので外的コントロールが関わってくることはほとんどない。しかし私たちが妻、夫、子ども、親、生徒、従業員とともにいるときには、外的コントロールが私たちのやり方となる。
外的コントロールから選択理論に移行した社会になれば、どれほど住みやすい社会になることだろうか。グラッサー博士はクオリティ・コミュニティという考えを抱くようになった。しかし、コミュニティ全体にどのようにして個人的な生き方を変えるように説得できるのだろうか。この章は、クオリティ・コミュニティのビジョンとコミュニティの始め方についての説明である。
『ビジョンの歴史』
- 入所したばかりのトレイシーという名前の少女がいた。いかにして彼女は敵意を捨てたのか。トレイシーは部屋の片付けもせずベッドメイキングもしないでベッドに座っていた。「何かしてほしいことあるの」と寮母は尋ねたが、たちまち呪いや脅しの言葉を浴びせられた。ここが重大なわかれ目である。規則では皆、自分のベッドを綺麗にすることになっている。トレイシーがベッドを綺麗にすることは重要である。しかしそのプロセスの中で、すでに今まで疎外されてきたこの少女から私たちをさらに引き離すようなことをしないことが最も重要である。寮母は「あなたがどうしているか心配している女の子の1人に、ここに来てもらってベッドを綺麗にするお手伝いをしてもらうというのはどうかしら」と言った。トレイシーの敵意は既に収まりかけていた。寮母が彼女の呪いにも、脅迫にも関心を払わなかったからである。寮母が提供していたものは全て援助であった。寮母は自分でベッドメイキングをすることもしなかった。多くの学校や組織では外的コントロールを使って状況をもっと悪くしているが、それよりもこの方がはるかに効果的である。
『クオリティ・コミュニティはどんなものか』
- クオリティ・コミュニティで、子どもが家庭で不当な扱いを受けていることがわかると、この情報はコミュニティの危機と考えられる。初期援助によって大きな苦しみから救われる。コミュニティで専門家を含めたかなりの数の人々が選択理論を学び、共通の言語で話し合いができるようになれば、このようなことがわかった段階で、彼らに対処する取り組みを始めることができる。
- 今、コミュニティがしていることは罰と無視であるが、どちらも効果はない。そして事態は悪化している。医療費が少なくなることも、選択理論を使い始めると次第に明らかになってくる。警察官と刑務所員の全員が選択理論を学ぶ機会を提供することは重要である。裁判官は新しい裁判方法があることに気づき、服役囚あるいは少年院に入っている人は、グループディスカッションに加わる機会が提供される可能性もある。
『始めること-最初のステップ』
- 最初のグループは誰かと一緒に本書を読み、その人と話し合って進んでいくのが賢明である。
- 最初の企画会議には少なくとも100人を集める。本書を読んだ人は誰でもこの最初の会合に出席することを歓迎されるべきである。
『読者のグループ-継続教育の段階』
- コミュニティの残りの人々に本を読んでもらう良い方法は、最初の会合に出席した人々の中からボランティアを募って読者のグループを作ることである。このような人々がコミュニティで尊敬されていればいるほど、彼らのプログラムへの貢献は大きい。
- 最初に読者のグループをリードする人たちは専門家である必要はない。彼らに必要なのはユーモアのセンスと人間関係の技術である。このような能力は、引退した人々の中に見つけられるであろう。
『実践段階』
- 実践のその他の部分は援助の専門家を紹介することになる。どこのコミュニティであれこのプログラムを実践する経費はわずかである。コミュニティが費やすお金は節約されるだけでなく人間の不幸が減少することによって、何十倍にもなって返ってくる。
◆第12章を再読して感じたこと
- 何かを始める、ゼロイチはいつも一番難しい。それはグラッサー博士といえども同じである。この「まとめ」では割愛したが、ニューヨーク州コーニング市で行った講演から始まったコミュニティについても書かれている。熱意のこもったコーニング市への提案の手紙も掲載されている。コーニングの人々は警戒しながらも燃えていた。彼らは完全に理解していないことに時間とお金をかけることが不安だった。まさに何かを始めるときの戸惑いはこのようなものだろうと思う。
- グラッサー博士が本書の中で繰り返し言っているのは、本を読んでほしいということである。これは「グラッサー博士の選択理論」のことである。もうすぐ出版される本という言い方で説明している部分もある。執筆と並行して行われたコミュニティへの挑戦である。本当に大変なチャレンジだったと考えられる。
- 更生施設での寮母さんのエピソードは非常に参考になる内容だと感じた。大きな声でクレームを言うお客さまに対応するテクニックを書いた本なども最近は人気のようだ。しかし私はテクニックよりもいつもと同じ対応をすることのほうが大切なような気がしている。(この当たり前のことが大変難しいのは事実だが)相手が大きな声を出したからといって、こちらも大きな声を出していいわけではない。こちらに非があれば謝り、できることは速やかに処理し、できないことはできないと言う。寮母さんの立場ではつい言い過ぎてしまいがちだが、ここで創造性を働かせ提案をしている点は注目すべきところだと感じた。
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