ウイリアム・グラッサー著選択理論の基本の書(実践編)
第二部 実践編
第11章 職場での選択理論
私たちのほとんどにとって、仕事はアイデンティティの要素である。初対面のとき、最初の質問はしばしば何をなさっていますかである。大したことをしていなかったら、これはとても苦痛をもたらす質問である。仕事そのもので自分が不幸だと思う人は少ないが、上司や同僚との関係から感じる不幸が主な原因となっている。
リード・マネジメントとボス・マネジメントとの関係は、選択理論と外的コントロール心理学との関係と同じである。
『ボス・マネジメントの4つの要素』
- 全てのレベルでボスが仕事とその仕事の基準を決定する。従業員の意見を聞くことはめったにない。
- 大抵ボスは従業員に仕事のやり方を話すだけで見せることをしない。
- ボス、もしくはボスが命じた人が仕事を検査し評価する。従業員はこの評価に関わらないので、ほとんどの従業員は最低限度の仕事しかしない。普通以上の仕事をしている従業員は仲間の従業員から除け者にされる。仕事そのものが従業員の上質世界に入っていない。
- ボスに対しての従業員の抵抗は、常に様々な方法で試みられ、それが品質を落とすことになる。マネジャーと従業員は敵対関係となり恐怖が支配する。
『リード・マネジメントの4つの要素』
- リード・マネジャーは、会社が成功するために必要な仕事の質と経費について絶えず正直な話し合いを全従業員にしてもらう。
- リード・マネジャーあるいはその役割を任された人は、マネジャーが期待しているものが従業員に正確にわかるように、仕事のやり方の規範を示す。従業員は仕事がどのようにしたら改善できるかの考えを述べるように励まされる。このようにしてマネジャーは、従業員が自分の仕事に対してコントロールできるものが多くなるようにする。
- 従業員は、高品質な仕事がどんなものかを一番よく知っているし、できるだけ経費をかけないで高品質なものを生み出す方法を知っている。従業員がこのような安心感を抱いていると品質は向上し経費は低くなる。
- リード・マネジャーは上質の本質は絶えざる改善であることを教える。マネジャーの仕事は従業員に道具、訓練、そして仕事のしやすい友好的な場を提供することによって、改善を促進することである。
『ボス・マネジメントからリード・マネジメントへ』
- 今日のマネジメントは露骨なボス的対応をしない。しかしトップ・マネジメントはボス・マネジメントであるという固定観念がほとんどの従業員にある。そこでトップ・マネジャー自身がリード・マネジメントを採用する何らかの明白なステップを踏み出さなければ、組織的にボス・マネジメントが浸透したままである。押しつけることしか知らない下級マネジャーの頭の中にこの事実が定着するには何年もかかる。
- 実際に下級マネジャーはボスのように押しつける傾向が最も強く、組織がリード・マネジメントに変化しようとしているときに、彼らに変わってもらうのが一番困難である。1人のマネジャーと2人の従業員がいる小さな会社では、年配の従業員がボスのように振舞って一方の従業員を強制する傾向がある。
- ボス・マネジメントが破壊的なのは、それが個人に焦点を合わせ、お互いを対抗させるからである。リード・マネジメントが成功するのは「私たちはあなたのことを気にかけていますよ」というメッセージが中心にあるからである。
『貪欲について』
- 自分たちの貪欲さを守るために、たくさんの物を欲しがる人々は「それに値する」という論法を使い、自分たちの会社が競争に勝っているのも、自分たちの技術のおかげだと主張する。このような技術がなかったら、今よりも雇用の保証は少なかったであろう。この議論を間違いと決めつけることはできない。しかし、不幸なことに貪欲の主たる原因は、人が何かに値するということとあまり関係はない。それは強い「力の欲求」の産物である。
- 他人がどんなに苦しもうが欲求が強ければ強いだけ、それを満たしたときの気分は良くなる。このようなタイプの欲求の持ち主は、もっと欲しいという欲求を抑えることをしない、成功したほとんどの人は力の欲求とともに、愛と所属の欲求も強い。彼らは自分たちの成功を交渉相手や自分たちのために働く人々との良い人間関係の上に築き上げた。
『不熱心』
- 不熱心は目に見えない巨大な経費である。従業員がボス的な扱いを受ければ受けるほど、要求は全て押し付けであると受け止めて不熱心になる。
- ボス・マネジメントが行われているところでは、すぐに罰を受けることになる。これが一度でも起これば、何もしない、何も言わないのが安全だということが浸透していく。ボスに問題の解決を考えさせればいい。そのための給料をもらっているのだから。これが従業員の考え方になる。
『解決のサークル』
- マネジャーがどれほどリード・マネジャーになろうとしても、通常の人事考課を部下に対して行えばボス・マネジャーの役割を負わされることになる。マネジャーが年間を通してこれまでやってきたことをぶち壊してしまう。このような評価はほとんどのマネジャーと同様、全従業員が嫌がっている。
- 必要なことは、会社が従業員各自に皆でどのようにしたら会社を良くすることができるか、話し合ってもらうことである。業績評価に関わる話し合いは、結婚や家族の解決のサークルと同じようなもので、「職場の解決のサークル」と呼ぶことができる。
- リード・マネジメントが行われている会社では、マネジャーは従業員を呼んで、次のように言うだろう。「職場の状況を改善するのに、あなたにどんなことができそうか。そして私が力になれるとしたら私にどんなことができそうか話してくれませんか。何か大きなことを考えつくのが重要なのではなく、あなたが何を求めているか。そのために私がどのように力になれるのか、そんなことをお互いに話し合うときにしたいのです」
※職場で起きる障害とそれに伴う心理的な苦情への対処法、補償について実際にグラッサー博士がかかわった事例が書かれているが、日本の制度と同じとはいえないため割愛する。
◆第11章を再読して感じたこと
- リード・マネジメントに関しては、様々な書物が出ているが、グラッサー博士の説明は非常に簡潔で鋭いと感じた。日本人向けに書かれたものとはまた違った鋭さともいえるが、共感できる部分が多かった。
- 私は10年ほど事務の短期派遣を繰り返していたことがある。2~3ヶ月の仕事が多かったが一番長い仕事が2年だった。コールセンターから役所まで10年間で20社ほどの仕事をした。私は事務所の一隅でPCに向かい、電話を受け、その会社の雰囲気を感じながら、社員さん同士の会話を聞いていた。その当時私が感じていてことがそのままこの章に書かれていると言ってもいいのである。単発の仕事は製品のリコールや社員さんの休職など何かしらトラブルが起きているからこそなのである。そんなトラブルの中で社員さん同士の会話が少ない静かな職場が多かった。この10年で私は大きな変化を遂げたと自分でも感じている。家事と仕事を両立するために選択した働き方だったが、同じ会社でずっと働いていたのでは得られない貴重な体験だったと思う。
- 特に以下の3つはひそかに私がいつも感じていたことである。
・普通以上の仕事をしている従業員は仲間の従業員から除け者にされる・何もしない、何も言わないのが安全だ・年配の従業員がボスのように振舞って一方の従業員を強制する傾向がある

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