2023/07/03

グラッサー博士の選択理論(4)全行動


 ウイリアム・グラッサー著

選択理論の基本の書である。

各章のまとめの4回目、全行動について。

 

 

 

 

 

第一部      理論編

4      行動のコントロールの仕方 

この章は、カウンセリングの場面から始まる。

相談者はトッド。30代初めの男性。カウンセリングにやってきてすぐに自分が落ち込んでいることを話し始めた。トッドの悩みは妻との壊れた関係についてであった。

妻はトッドより10歳も若い23歳。トッドは妻よりも自分の方が世間をたくさん知っていると思っていた。そして自分が何でも決めることを妻も喜んでいると思っていた。しかし妻は1週間前、家を出ていった。

「どうして妻はこんなことをするのでしょうか。妻が帰ってくるような手助けをしてください」トッドはとても気分が悪いと訴え落ち込んでいた。


『カウンセリング』

  • カウンセリングは、まずクライエントとカウンセラーの良い人間関係を確立することに成功しなければ何も始まらない。選択理論を基盤にしたリアリティセラピーは、現在の人間関係を改善することに焦点を合わせる。過去の人間関係には関心を向けない。カウンセリングの一部として選択理論を学んでもらいたいが、初回から「あなたはみじめさを自分で選択している」と言ったならクライアントは席を立って帰ってしまうであろう。
  • カウンセリングの最初の数回は冗談を言い合い、話し合い、お互いを知ることが重要である。このような話し合いは支援的な温かい関係を育む。
  • 次にうまく行かなくなった人間関係を探す。「トッドさん、気になっていることを話してくれますか」外的コントロールの行動をしているか、自分の気持ちを妻のせいにしているかどうかを探る。このような質問はトッドの注意をひきカウンセリングが進んでいく。


『全行動』

  • 行動は全て基本的欲求の充足に直結する。私達はいつも人生を最も効果的にコントロールできる方法で行動を選択している。効果的なコントロールとは、私たちの上質世界にあるイメージ写真を満足させようとする行動である。
  • 行動とは、体を動かし、何かをすることである。体を動かす方法には4つの不可分要素がある。

1行為。歩く話す食べるなどの行為。

2に思考。私達はいつも何かを考えている。

3は感情。私達が行動するとき、いつでも何かを感じている。

4は生理反応。何かをしているときにいつも生理反応が伴っている。鼓動、呼吸、脳の働きに関係のある精神化学物質の変化がある

これらの4つの要素が全て同時に機能しているので、選択理論では行動という言葉を全行動と言い換えている。

  • あなたはこのように言うであろう。「私は自分の感情に気づいている。しかしその感情はたまたま起こったものだ。もし選択できるのなら惨めになる選択だけはしないだろう」しかしこの言葉が本当なら心理療法を受けるのは納得がいかない。自分の感じていることについて何も選択できないのなら、自分の人生や抱えている問題について話し合って何の役に立つのか。
  • あなたが全行動を選択するときに、常に4つの構成要素全てが関与しているが、直接コントロールできるのは行為と思考だけである。4つの構成要素は分離されないということを受け入れれば、たとえ直接感情をコントロールできなくても、感情ばかりか生理反応も間接的にコントロールできると気づくようになる。
  • 頭の中で繰り返し考えていることがやめられない。どんなにそれが惨めなものであっても、あなたはその繰り返し考えている。なぜならその考えは、そのときにあなたが選ぶことのできるどんな考えよりも、あなたの人生のある部分をコントロールしているからである。人はいつの時点でも常に最善と思える選択を試みるという考えは全行動を理解するのに重要である。

 

『落ち込み』

  • トッドは状況に対処するために落ち込みを選択したのだ。繰り返される選択には、選択理論から見れば立派な理由があるのだ。トッドの場合は妻であった。
  • トッドは落ち込んでいる。この場合、彼が惨めさを選択していると言ったが、直接選択しているとは言っていない。彼が直接選択していたのは、落ち込みと呼ぶ行為と思考という全行動の構成要素である。
  • 落ち込んでいる限り、頭の中には同じ不幸な思いが去来し続ける。落ち込みは苦痛ではあるが、この状況で落ち込まないのはもっと苦痛であったろう。
  • こうしたものが選択の結果であると考えると希望がある。一つの選択ができるなら、もっと別の、もっと良い選択をすることもできる。
  • この落ち込みを選択することはどのように役立っているだろうか。無益なら、もっと良いことを選択することはできるだろうか。頭の中でこうして考えてみると、いつまでも落ち込んでいることが困難になることに気付く。
  • 全行動についての知識を持てば、明らかに苦痛や惨めさを経験している人に向かって、気分はどうですかというような質問をしなくなる。質問されたほうは「気分はいいです」と嘘をつくからだ。今日は何をするつもりですか」という質問は自分をコントロールしている感じが得られる。これは気分を良くする助けとなる。

『落ち込みを選択する3つの理論的な理由

 ①怒りの制御

  • 怒っても欲しいものは手に入らず、エネルギーだけを消耗し、苦痛を味わうだけである。落ち込みは怒りを制御するために人間の考えついた最も強力な方法の一つである。
  • 怒りを完全に遮断するには大変なエネルギーが必要だ。そのため落ち込んでいる限り何をする気力もない。
  • もっと効果的に人生をコントロールする別の選択を持つ思いつきさえしたら落ち込みを選択しなくて済む
 ②助けてほしい。

  • 落ち込みは、人に助けを求める方法である。これは援助を求める最も強力な情報提供である。その強力さゆえに多くの人がその苦痛にも関わらず、他人をコントロールしようとして落ち込みを選択する。
  • 苦痛は援助を求めることを正当化する。苦痛なしに援助を求めれば、能力で自立していない人間と取られてしまう。無能力と思われることは大きな苦痛である。それでは力の欲求が満たされない。

 ③逃避

  • 私たちは落ち込むことで、したくないこと、または恐れていることをしない言い訳としている。誰かが実行するように言えば「今はとても落ち込んでいて、それどころではないのです」と言うだろう。


『落ち込みをやめる』

  • 落ち込みは自分の選択であるという主張を確かめるには、何かをしてみることだ。簡単にできることで、楽しくできそうなことを。そうすると、しばらくの間は不幸な人間関係について考えることもなく気分は良くなっている。しかしやめるとすぐに悪くなった人間関係に想いがいって、感情が戻ってくる。
  • 落ち込みのような惨めな行動を選択することをやめたいときにできる選択は3つある。

①自分の求めているものを変える、

②自分のしていることを変える。

③両方を変える。

  • 落ち込みを選択しているときでさえ、より良い選択をする能力がある。全ての行動と同様、落ち込みも選択なのだ。歩いたり話したりするような直接の選択ではないが、快感であれ、苦痛であれ、間接的な選択であることがわかってくる。間接的であっても、選択であることに変わりはない。


◆第4章を再読して感じたこと
  • 具体的なカウンセリングの場面が出てくるので話の聞き方や提案の仕方など興味深い内容が多い。トッドは選択理論を理解し新しい妻と幸せに暮らしている。
  • 全行動の4つの要素のうち直接コントロールできるのは思考と行為だけである。本書では文章で説明しているが、セミナーなどではこれを車のイラストで説明している。前輪が思考と行為、後輪が生理反応と感情である。エンジンが基本的欲求。ハンドルが上質世界。車は一人に1台。自分でハンドルを握る。他人のハンドルを握ることはできないし、他人に自分のハンドルを握らせてもいけない。この車のイラストは非常にわかりやすい。自分はどうしたいのか、車を見ながら考えていくのである。
       車のイラスト(参考)
  • こういう理論を覚えても実際に役に立つのだろうかと懐疑的な時期もあったが、シンプルな理論がしっかり頭に入ってくると行動は変わってくるのだと少しづつ納得できるようになった。
  • 私は思考は言葉だと思っている。思考を変えるとは言葉遣いを変えること。特に心の中のひとり言(セルフトーク)を変えることだと思う。本書でも名詞から動詞へという説明があった。「きょうは何をするつもりですか」という言葉はすぐに使うことができる。
  • 間接的であっても、選択であることに変わりはない。どんなことであっても自分のしていることは自分の選択なのだ。ここまで言われたらもう受け入れるしかない。

これで選択理論の基本的欲求、上質世界、全行動、外的コントロールという主要な部分は終わるが、第5章「解決のサークル」第6章「葛藤」と続き、日常生活に密着した内容が紐解かれていく。




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