2023/06/01

喜多川泰さんの「手紙屋」2冊

手紙屋は希望者と手紙のやりとりをすることを仕事にしている。その手紙は全10通。手紙屋が今まで学んだことを惜しみなく伝授しながら夢を実現する手伝いをするのである。

2007年8月発売の就職活動編と同年12月発売の螢雪編と2冊あるのでどちらから先に読むか迷った。私は就職活動編から読んだがティーンエイジャ-なら螢雪編からがいいように思う。

それではまず、
「僕の就職活動を変えた十通の手紙」から

主人公の諒太は大学4年生だが就職活動に乗り遅れている。自分が何に向いているのか、何をしたいのかわからない。
そんな状態で受け取った手紙屋からの1通目の手紙。
働くという行為は「お金や安定」と「労働力や時間」をちょうどいいと思う量で交換している。この手紙は物々交換がテーマだった。今までお金があれば欲しい物が買えると諒太は単純に考えていたが、世界は自分の理解しているものとは違うと気づく。

この辺りの設定はかなり怪しい雰囲気はある。社会人経験を積んだ人なら警戒して手紙は書かないだろうと思うが、とにかく不思議な文通は始まった。そして手紙が届く度に世界観が変わっていったのである。次に学んだのは、頭の中に天秤を用意すること。片方に手に入れたいものを乗せ、もう片方には手に入れるために必要なものを乗せる。バランスを取るには努力が、練習が、勉強が必要になる。

文通を通して、多くの人から必要とされ続ける大切さも学んだ諒太は大企業へのこだわりが消えかけていた。しかしそのタイミングで内定をもらう。安心感を持ちながらも拍子抜けする諒太はさらに自分のしたいことは何か考え続け、ついに文通が終わるころには自分の生き方を見つけるのである。

ビジネス書のような難しい言葉は使わず感情的にもならず静かに進んでいく。よくある啓発書との違いはわかりやすさと、相手の成長を期待しながらも他人を変えることはできないと理解していること。人は多面的でありすべての人にあらゆる性格が備わっていると考えていることである。

背景の設定も面白い。書楽という書斎カフェとそこで働く和花の存在。前向きな生き方をする車椅子の義兄。そして手紙屋とは何者なのか(これは最後にネタバレがある)



続いて蛍雪篇 私の受験勉強を変えた十通の手紙」

書楽で働いていた和花が高校生2年生のときの話。やはり和花も手紙屋と文通していたのである。

父親とは衝突ばかり、勉強はやる気になれず成績は低迷していた。この辺りは共感を持つ人も多いのではないだろうか。私などは高校生のときの記憶は薄れてしまっているが父親との衝突はピークだったような気がする。


進学せず就職する道も考え始めた和花だが、そのタイミングで兄から手紙屋を紹介された。兄はバイク事故で車椅子生活になったが手紙屋のおかげで人生が変わったと言う。兄に届いた1通目の手紙を読ませてもらって涙する和花。そこから文通が始まったわけだが、驚いたことに和花への1通目の手紙には「しばらくの間、勉強するのをやめてほしい」と書いてあった。

勉強をしなければしないで落ち着かない和花だが2通目、3通目の手紙を受けとるうちに昨日とは違う自3分になるためにもう一度勉強しよう、大学に行こうと考え始める。そして、またまたいいタイミングで大きな変化が起きる。両親が与論島に移住してペンション経営をすることになったのである。和花はペンションの手伝いをするか一人残って大学に進学するか決断を迫られる。

文通が続くにつれて変化していく和花だが、何かに没頭しているときに感じる楽しさは「笑える」という意味の楽しさとは違うことに気づく。

誰かを幸せにするため・・・これも大事なことだが忙しくなると忘れてしまいがちなことでもある。

私は喜多川さんの作品は若者向けの人生指南書だと感じていたがネット上の書き込みを見ると若者よりも親世代、ある程度の年齢の人に刺さっているような感じがした。私も若いときに読んでいたら印象は今よりサラッとしていたのかもしれない。なぜなら簡単なことでも実践は難しいが、それでも諦めずに少しずつでも続けていたら何かしら結果がでることを今は知っているからである。

読んでいる途中で思い出したことを付記する。
三浦綾子さんの「続氷点」に出てくる言葉、
一人の人間を、いい加減に育てることほど、はた迷惑な話はないんだよ。自分一人くらいと思ってはいけない。その一人くらいと思っている自分にたくさんの人がかかわっている。ある一人がでたらめに生きると、その人間の一生に出会うすべての人が不快になったり、迷惑をこうむったりするのだ。そして不幸にもなるのだ。

子育て中に何度も思い出した言葉。自分勝手に子どもたちに感情をぶつけそうになったときに歯止めになってくれた。綾子さんの言葉には力強さが、喜多川さんの言葉には優しさがある。 

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