「かんわいんちょー」としてyoutubeでもご活躍の大津秀一先生の著書。
私の本棚を調べてみたら傾聴の本が9冊あった。
その中でも異彩を放つ、そして大きな影響を受けた本が本書である。
終末期医療に尽力されている大津先生は、
患者さんが最期に一番後悔することとして「愛している人にありがとうと言わなかったこと」をあげている。
お人柄がわかるエピソードだが、本書も優しさあふれる内容になっている。
では、大津先生の実践されている傾聴とはどんな内容なのか。
まず、傾聴力とは人脈を広げるコミュニケーション力とは違う。.
困っている人、苦しんでいる人を支えたいという気持ちと定義している。
では、苦しみとは何か。
人間の苦しみは4種類ある。
①
身体の苦しみ
②
精神的な苦しみ
③
社会的な苦しみ
④
スピリチュアルペイン
スピリチュアルペインとは存在の揺らぎの苦しみのこと。
一般的にいわれる超自然的な力のスピリチュアルとは違うのでご注意を。
この4つの苦しみは互いに絡み合い、そして悪循環を形成し、誰かをより苦しめる。
では、一番難解なのは「存在の揺らぎ」だが、いったいどういうことか。
簡単に言うと、自分は生きる意味はないのではないかと考えること。
この苦しみは、身体的、精神的、社会的な苦しみの中心に位置する。通常は3つの痛みだけで存在自体が傷つけられるということはない。ところが重大な事象が起きた場合には、スピリチュアリティまで痛みが生じることになる。
このように苦しみが複数絡み合って存在する場合は一人で改善することが困難になる。
傾聴とは存在の意味と向き合う人を支え続けること。
答えを見つけるまでそばにいるということ。
この辺まではお医者さんらしい口調で図を用いながらの説明だが、このあとの話が面白い。
人はそれまでの人生に対する自分なりの解釈を持って現在という時を生きているのである。こうした意味的結びつきを背景として各人が自分の「物語」を作り出す。
この「物語」という概念は本書を初めて読んだときは驚きだった。しかしこの概念は年齢を重ねるごとに私の中で大きなものになっていったのである。ガンジーの言葉やホスピスの医師や看護師の言葉も引用しながらわかりやすく説明してくれているので理解しやすい。
どんなに考えても一つに定義できない「生きる意味」を考え続けるよりも今をどう生きるか考えることが大切といことに尽きるのかもしれない。
傾聴とは、
対象となる人が自分自身の存在と自分の人生を肯定できるような新しい「物語」の再構成ができるように援助する行為と捉えることができる。
最初は不幸で終わる物語かもしれないが、しかし何度もその物語が紡がれる中でときに何かが変わり始める。
苦悩する人は、言葉を投げかけてそれを自らの耳でも聞き頭で反芻している。反芻しながら自らの発した言葉を考えている。傾聴は相槌が大事といわれる。アドバイスも大切である。しかし沈黙しながら注目してあげることが傾聴そのものという場合もある。必ずしも苦悩者の問いかけに答えてあげる必要はないのである。どんな人にも背景があり物語があるのだから。
後半は、実際の患者さんとのやりとりが多く引用されている。言葉遣いや問いかけのタイミングなど医療現場以外でも活用できる内容になっている。そのあと、だいぶ終盤になってから一般的な傾聴の技術がでてくる。聞いていますよというメッセージを正しく伝えることは重要なので、非言語的メッセージ、相槌や反復、要約などのテクニックの説明もあるのでご安心を。
本書が他の本と一線を画しているのはやはり「物語」という概念だと思う。苦悩者の背景にある物語を理解すること、苦悩者自身の中にある治癒力を働かせるお手伝をすること、急いで決断させようとしないこと。時として「わからない」ということも一つの答えであること。傾聴の技術もスゴイことが書かれているが読む度に私自身が癒されて優しい気持ちになれる。
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