2023/05/04

運転者  未来を変える過去からの使者

喜多川 泰 著 

歩合制の保険営業の仕事をしている修一は顧客の大量解約で危機に陥る。そんな時に偶然乗ったタクシーの運転手との会話から人生が好転していく。


タクシーのメーターは走る度に減っていきゼロになるまで乗り放題。初めて乗ったときは69820円だった。突然現れて修一の私生活まで知り尽くしている運転手も不気味だった。ファンタジー要素と啓発的な金言とがマッチした不思議な作風だが幅広い年齢層で楽しめる工夫ということなのかもしれない。とにかくピンチの時に現れる。そして修一の運気を好転させるために必要な考え方を提示してくれるのである

 




私も人生の前半は運に恵まれていないと感じることが多かった。ところが潮目が変わったと感じるようなことがあってから割りと順調な日々を送っている。大切なのは大きなことではなく日々の小さなこと。その辺りのことを実に上手に本書は描いている。

 

ポイントは細かい点はいろいろある。その中で私がこれは本当にその通りだと感じた点は2点あった。

 

まず1つ目は夫が突然10万円のギターを買ってきたのに妻が怒らなかった件である。どんなことが運気を好転させるかわからない。出会った人の全てに関心を持つよう運転手にアドバイされた修一。四国のバーで知り合ったミュージシャンに感化されて買ったギターである。ポイントは自分に興味がないことでも相手にとって興味のある事(物)であるなら絶対に否定してはいけない。これは非常に重要なポイントだが意外と難しい。たまたま今回は修一もギターに興味を持ったが、そうならないこともある。必ずしも相手と同じ興味をもつ必要はないが、ギターを好きな人がいることは受け入れる。親子や夫婦などでは結構これは難しい課題だったりする。親は子に、どうしても自分の好みを押し付けてしまいがちである。

 

もちろん物語の中には様々な仕掛けがあり、妻も間接的に人生を学ぶ機会が訪れているために起きていることである。これは著者の仕掛けの上手さであると思う。

 

この不思議なタクシーに数回乗車するうちに少しずつ修一は人生を上手に生き抜くコツを身につけていくわけだが、もう一つ非常に大切な学びを得る。

 

もう一つのポイント、それはいつも「上機嫌」でいることである。

 

私は最近、選択理論心理学の勉強を始めたばかりだが、本書と共通する部分が多いことに驚いている。おそらく人生を自分らしく生きるコツは心理学でも哲学でも基本は同じなのだろうと思う。

 

選択理論では「幸せは責任」と表現している。幸せな人は問題を起こさない。幸せな人は他人を傷つけることが少ない。だから幸せは権利ではなく責任だという考えである。自分の機嫌は自分でとる責任がある。

 

著者の喜多川さんは(ウィキペディアによると)愛媛県出身とのことである。愛媛県は選択理論を積極的に学ぶ方々が多い。私の選択理論の師匠も愛媛県在住の方である。企業や学校でも講演を行っているようなので、もしかしたら何かしら本書のエキスとして選択理論が取り入れられているかも。などと自分勝手に妄想しながら読了した。

 

一冊の本との出会いで人生が変わることもある。これは読書好きなら誰もが感じていること。

しかし、一方で「それができたら苦労はしない」という感覚でこの類の本を手にとらない人も多いことは事実である。たしかに、それができないから苦しいのだ。それでも手に取ってほしいと思ってしまう。そして本書を手にとった全ての方の人生が好転しますように。


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