イギリスの重大犯罪分析課刑事ワシントン・ポーはシリーズスタート時点は停職中です。
ポーは特権や利権が大嫌いで、暴力的で自虐的な面があり、警察のお偉方を怒らせることをまったく気にかけず独自の発想で事件を解決してきました。
最初は復職の話でさえも反抗的に受けとめていますが、ティリーとの出会いや他の仲間に受け入れられたことで徐々に柔軟さを身につけていきます。
相棒のティリーはIQが200近くある分析官です。彼女はハッキングでどんなデータも取得することができますが、頭が良すぎることで周囲と噛み合わず融通がきかない変わり者というレッテルを貼られています。
世間ずれしていなくて正直で思ったことを何でも口に出すティリーはポーにとって貴重な存在となっていき、3作目あたりからは強い信頼関係へと発展します。
2人はぶつかることも多いのですが特に食へのこだわりはお互いに譲らないためトラブル続出です。ワイルドな肉食生活を謳歌するポーに対しティリーはヴィーガンで抹茶やハーブティを飲むのですから仕方ありません。
さらに輪をかけて変わり者である病理学者ドイルが2作目から登場します。ポーとの関係が男女の友情なのかロマンスに発展するのか。これも注目すべきポイントでしょう。
ポーの所属する重大犯罪分析課とは、国家犯罪対策庁(NCA)の中の一つの部署です。麻薬や組織犯罪など広域にまたがる犯罪に対処するため設置されたNCAはイギリスのFBIといったところでしょうか。所轄の初動捜査がある程度終わってからのプロファイリング的な役割を担っているという説明があります。しかしポーは強引に現場に出かけて引っ掻き回していくのでプロファイリングの意味がわからなくなります。
ポーは停職のきっかけとなった事件のあと、新聞や警察上層部だけではなく善意の同僚の支援をも無視するような形でカンブリアの山奥に住居を移します。このシリーズは自然の中で暮らすポーの生活自体が物語になっていると言ってもいいでしょう。
カンブリアの湖水地方にある住居は、周りに家がほとんど見当たらず、約2マイル(3.2㎞)離れたシャップ・ウェルズ・ ホテルからの道のりは四輪バギーだけが頼り。
ハードウィック・クロフトと呼ばれているこの住居は農家から譲りうけた土地に建っている廃墟同然の羊小屋を改装したものです。
大変な苦労の末に落ち着ける場所を見つけたポーですが、その土地の一部が国立公園に含まれ、ユネスコの世界遺産に登録されてしまったため改装工事が違法とみなされて裁判にまで発展します。
Googleマップで調べてみると「ストーンサークルの殺人」に出てくるロング・メグ・アンド・ハー・ドーターズというストーンサークルはすぐ近くにあります。
シャップ ウェルズ ホテルもカンブリア州に現存しています。1泊17,000円から20,000円程度のようです。ネットで内部も見ることができますので興味のあるかたはググってみるとさらに楽しむことができるでしょう。
Googleマップで調べてみると「ストーンサークルの殺人」に出てくるロング・メグ・アンド・ハー・ドーターズというストーンサークルはすぐ近くにあります。
シャップ ウェルズ ホテルもカンブリア州に現存しています。1泊17,000円から20,000円程度のようです。ネットで内部も見ることができますので興味のあるかたはググってみるとさらに楽しむことができるでしょう。
山の生活は何かとトラブルが多いうえに捜査が佳境にはいると移動も大変です。
カンブリアから重大犯罪分析課の本部までは車で4~5時間。ポーは事件のない時はカンブリアで過ごし事件が起きたときはイギリス中をかけめぐります。そのドタバタぶりがこのシリーズの面白さにつながっている側面も否定できません。(車で5時間程度の移動を違和感なく受け入れて読んでいるのは私が北海道で暮らしているからかもしれませんが・・・)
シリーズ中のもう1つのコンテンツとなっているのがポーの実父捜しです。母は亡くなり養父は放浪の旅に出て不在。1作目で自分の出自の秘密を知りますが5作目までに実父が見つかる気配はありません。
各作品の構成はシンプルで時系列に沿って進むことが多いので読みやすいと思います。
それでは、まずは「おもな登場人物」の紹介を。そしてその後、簡単に各作品の内容に入っていきます。
おもな登場人物
ワシントン・ポー
国家安全対策庁の重大犯罪対策課刑事。スコットランド歩兵隊ブラック・ウォッチに所属していたことがある。その後カンブリア州警察を経て重大犯罪対策課へ異動。ポーは優秀な刑事でプロファイリングのプロでもあり自分の中に暴力性や強く不正を憎む怒りがあることを自認している。その怒りは軍隊に入ることで一時的な捌け口を見つけたが軍は知的な刺激に乏しかったので警官になった。人を怒らせることを厭わず真実を求め続ける異色の刑事。愛犬はスプリンガースパニエルで名前はエドガー。
ティリー・ブラッドショー
重大犯罪対策課の分析官。外で遊んでいてもおかしくない年齢を大学で過ごし、16歳で学位を取得卒業。その後、博士号を取得して補助金で研究に励んできた。重大犯罪対策課は初めて就いた仕事。専門は数学だが集中すれば他の分野も数時間で詳しくなれる。分析官なので本来は危険はないはずだがポーと行動をともにするため度々危険に遭遇する。刑事ではないので逮捕権限を持たない。
エドワード・ヴァン・ジル
国家犯罪対策庁情報部長。重大犯罪分析課の責任者。ポーがカンブリア州警察時代に一緒に仕事をしたことがあり、ポーに重大犯罪分析課で働くよう勧めた。ポーとティリーの良き理解者。
ステファニー・フリン
重大犯罪分析課の警部。ポーの停職処分後の仕事を引き継ぐ。最初はポーに苦手意識を持っていたが次第に信頼関係を築いていく。「キュレーターの殺人」でポーとティリーに命を助けられる。同性愛者。
エステル・ドイル
ロイヤル・ヴィクトリア病院の研究室で働く病理学者。イングランド北東部の常勤病理医。ずば抜けた才能の持ち主だが死体をおさめる保冷庫にワインを入れている一風変わった女性。2作目の「ブラックサマーの殺人」で初登場したときからポーに好意を持っている。
ストーンサークルの殺人
年配男性が黒焦げの焼死体で見つかるシーンから始まります。
カンブリアのストーンサークルで男性が焼き殺される事件はすでに3件。マスコミは犯人をイモレーションマン(生贄として火あぶりにするという意味)と呼びます。
3件目の被害者の体にワシントン・ポーという傷が刻まれていたことから、ポーは復職して捜査に協力するか今すぐ辞職願を書くか決断を迫られます。
復帰を迷うシーンで停職のきっかけとなった少女誘拐事件の詳細が語られていきます。被害者の父が容疑者を拷問して娘の居場所を聞き出し無事救出。しかし容疑者は死亡してしまいます。
本来なら被害者家族には見せないはずの報告書(容疑者の名前が書かれている)をポーが父親に渡してしまったことが発端でした。これはポーのミスだったでしょうか。どちらにしても機密情報漏洩から犯人を死なせてしまったことに変わりはありません。
職場復帰したポーを待っていたのは、もう一人の主人公ティリー。最初は全く話が噛み合わず苦労しますがポーはすぐにティリーの優秀さを認め心が通いはじめます。
カンブリアはエリアは広くても人口が少ないため同世代であれば全員知り合いという田舎によくある事情を抱えています。被害者3人につながりがあることを前提にポーは推理を始め(読者にとっては)残念なことに割と早い段階で犯人の目星がついてしまいます。
しかし本書の面白さはそこから・・・謎解きだけではない事件の背景にあります。
本書の事件は児童虐待に絡んでいて救いようのない事件が語られていきますが、唯一の救いは警察組織がただ愚かなだけではなく地道に捜査を積み上げる組織でありその過程をしっかりと描いていることです。
イギリスはオリバー・ツイストという名作を生んだ国。人権宣言でも世界を牽引してきましたが、その原動力となったのは差別と貧困と児童虐待と言ってもいいでしょう。
ブラックサマーの殺人
月に1回、図書館の一隅で開催される警察相談窓口に現れた一人の若い女性。見知らぬ男に監禁されていたと語る女性は、ポーが6年前に犯人を逮捕した誘拐殺人事件の被害者エリザベスでした。
殺されたはずのエリザベスが生還したため警察内は大変な騒ぎになります。
そもそも死体がないまま父親のジャレドが起訴されて有罪になったという一風変わった事件です。三ツ星レストランのカリスマシェフとしてテレビにも出ていた有名人ジャレドが刑務所から甦り、冤罪疑惑でポーは追い詰められます。
生還した女性の血液検査はエリザベスのDNAと一致。6年前、レストランの厨房で見つかった大量の血液や状況証拠は間違いのないものと信じるポー。その後は、検査の正誤や証拠保全の仕方が問題になっていきます。
ジャレドを最初からサイコパスと決めつけて過激な言動をとるポーをティリーがデータ分析で支援。前作では本部の外で活動することに否定的で母親を巻き込んだ大騒動を起こしたティリーですが、今回はポーが困った立場に陥っていることを知ると、驚くべきスピードでカンブリアに駆け付けました。
病理学者ドイルが初登場シーンから異彩を放ちます。事件解決の最初の糸口をつかんだのもドイルでした。
とにかく本作は一風変わった雰囲気が漂っています。ナルシストな成功サイコパスの怖さだったり、レストラン経営の裏側であったり、イギリス全土に無数に存在した防空壕のことだったり、トリュフに関する蘊蓄だったり。そのすべてが周りくどいほどに描かれています。
その中でもタイトルの「ブラックサマー」とは何か、この点に注目して読むと面白いと思います。
キュレーターの殺人
クリスマスに3人分の切断された指が続けて見つかりますが死体が見つかったのは1件だけというまたもや不思議な事件。指が死後に切断されていることから連続殺人事件として捜査が始まります。
最初の事件はクリスマス・イブ。運送会社で行われたシークレットサンタ(グループ内でプレゼントを交換するゲーム)でプレゼントの中に2本の指が入っていました。
2つ目はクリスマスの早朝。教会の洗礼盤に切断された2本の指が置かれていました。
3つ目は12月26日のボクシングデー。精肉店で行われたミートラッフル(肉を景品にした福引)のカウンターに2本の指が置かれていました。
※ボクシングデーは箱(ボックス)を開ける日という意味です。クリスマスの翌日にプレゼントを教会に持ち寄って分け合う日とされていますが、近年はクリスマスまで定価で販売されていた商品が大幅に値下げされるセールとしても使われているようです。また、クリスマスに休めないサービス業の人々の一日遅れのクリスマスパーティの日という考え方もあるそうです。
共通する謎の記号「#BSC6」が3つの事件に残されていたり、自作の包装紙が使われていたりと最初からヒントが多くてスピーディな展開です。ポーの推理も冴えているのであっさり容疑者がわかって終わるかと思いきや・・・わかったと思っても、そう思わせるのが敵のねらいだった?その後も次々と謎が出てきます。
今回驚いたのは、2017年頃ロシアで実際に起きた自殺を誘導する「青い鯨ゲーム」の詳細が説明されていることです。SNSの青少年向けゲームですが、1日につき1つの課題が出され50日間続きます。課題にクリアすると報酬がもらえる中毒性のあるゲームで課題は次第にエスカレートして最終的に参加者は自殺に追い込まれるのです。
この手のゲームは褒められた経験の少ない人が洗脳されやすいということです。これは組織の中でいつの間にかコントロールを失って誰かの言いなりになってしまう心理とも似ているように感じました。
日本では模倣犯が出る可能性を考慮して報道はされなかったようです。しかし近年、ここまでSNSが日常に入り込んでいる以上は、このようなゲームの存在を知ることも警告として意味があるのかもしれません。
これまでの2作品と少し事件の傾向が変わってきているような感じがしました。ポーの立ち位置やティリーとの関係が安定してきたことも一因でしょう。これは少々寂しい感じもします。
出産を間近に控えたフリン警部は周囲の心配をはねつけて頑なに捜査に参加しようとしています。無理をしていることは明らかで何かが起きる予感にザワザワ感が止まらず、ティリーも危険を顧みずポーに同行します。サスペンス要素も強くて猟奇殺人の怖さ満載ですが驚きの結末が待っています。
グレイラットの殺人
だんだんと2人が変わり者だと感じなくなってきています。これはお互いに食事や服装など相手の好みが自分と違っていても尊重し合うようになってきたからでしょう。
プロローグ的に語られる事件は「007」の歴代俳優の仮面をかぶった人物が登場する少し凝った演出になっています。
5人は貸金庫に押し入りますが目当てのものは見つからず、1人が仲間に撃たれて死亡。ラットの置物が現場に残っていました。
次はポーの住居の改築が違法だった件での裁判シーンに移りますが無罪判決の直前にポーに緊急の用事ができて閉廷に。
ポーとティリーは正体不明の二人組に法廷から連れ出され、向かった先はMI5(イギリスの情報機関)というこれもまた凝った演出です。
MI5は、ポーとティリーに捜査してほしい事件があると持ち掛けます。イギリスで開催する首脳会議の関係者(アメリカのパイロット)が殺害された事件でFBIも絡んできます。
今回は伝説のスパイ「ロック」VS 伝説の刑事「ポー」という構図です。禁止されたり脅されるとそれをやりたくなるポーの性格を利用しているかのようにロックは挑んできます。
本当に凝った演出が続き、なかなかの構成で進んでいきます。
最初の事件と関連があると思われるラットの置物&寓話
パイロットの過去&アフガニスタンの悲劇
最先端IT技術&アナログ人間ポー
嘘のプロであるスパイ&嘘のつけないティリー・・・
ひっくり返してもひっくり返してもまた裏があるという感じの驚きと、事件は解決したはずなのに何かまだ騙されているような感覚、「あれは何だったのか」的な疑問も含めてこの作品の醍醐味なのかもしれません。4作目にしてやっとプロファイリングという言葉が活きてきた満足感はありました。
「著者あとがき」によると、本来は2作目として考えていたとのこと。編集者の意向などから一旦はボツになった構想を練りなおして大きく構造改革をした力作なのです。
1つ疑問なのは冒頭にプロローグ的な007は必要なのかということ。最初はまったく事件の概要が頭に入ってこなくて途中で意味がわかって冒頭のシーンに戻って読み直しました。最初にポーが出てきたほうが嬉しいというのが正直な感想です。
ボタニストの殺人
押し花と脅迫状が届いて著名人が毒殺される事件が続いて起きます。
1人目は性犯罪に関して独自の見解を披露した女性差別主義者。
2人目は悪評高い下院議員、3人目はネットで陰謀論を広める女性。
いずれも毒薬の種類は判明しますがどのような手段で飲まされたかわからず混迷の度合いを深めていきます。
一方で、ポーと親しい病理学者のドイルが父親殺人容疑で逮捕されてしまい、その容疑を晴らすためポーは奔走します。
2つの事件が並走していきますがどこかで交錯するのでしょうか、あくまでも別件なのでしょうか。とにかくポーは忙しくイギリス中を走り回るような状況に陥っていきます。
まずは毒殺事件ですが、ボタニストと名乗る犯人から電話が入り、少しずつ犯行の意図もわかってきます。被害者が揃って過激な思想の持主で大きな問題を抱えていることがポイントでしょう。
序盤では、女性差別主義者や陰謀論者などが標的になっているので狂った正義漢をイメージしましたがボタニストは愛でも善悪でもなく単に弱い人間だったという印象に変わってきます。
フグ毒や脅迫状の漢数字、西表島が出てきたりと日本に関係するシーンが度々でてくることも特徴の一つです。その割に事件には深く関わってこないのが不思議ですが、著者は日本通ということなのでしょうか。
とにかくポーの頭の中の半分はドイル事件に持っていかれ・・・なんとも忙しい展開になっていきます。
そして今回もティリーは大活躍します。ハッキングでどんな秘密も手に入ってしまっては捜査の醍醐味がなくなるのではないかと思うほど冴えています。
次にドイル事件ですが、雪の上に足跡がないことからポール・アルテを彷彿とさせる密室ができあがるという驚きの展開になります。
ドイルと父親との確執や遺産相続の問題、今まで語られなかった彼女の過去、ポーへの思いなど、今までのドイルの印象を覆す話題が続きます。
何といっても今回の一番の驚きはポーの心の中にあった氷の塊のような孤独が融けていったことです。誰とも深い付き合いをしなかったポーに別の生き方があると教えたのはティリーでした。
シリーズスタート時は偏屈者だったことが思い出せないレベルでポーは女性に好かれています。
読了時には、ポーの中にロマンスが芽生えるような予兆があったかしら?と過去作品を読み直したくなりました。
まだポーの実父探しは進展していないのですが次作で何か動きがあるのでしょうか。
デスチェアの殺人
今回はポーと精神科のトラウマ療法士ラングとの面談シーンから始まります。
眠るとカラスの夢を見る、頭の怪我、頭痛、仕事の場での目に余る行動、などの言葉が飛び交っています。
ポーのPTSDの原因を探るため、ここ数ヶ月の出来事をラングに語る回想という今までにない形式ですが、スピーディな展開で引き込まれていきます。
もしかしたらドイルとの不仲が睡眠障害の原因ではないかと考えてしまいましたが、2人は順調に愛を育んでいます。
事件は2つあります。最初の事件はアナグマが掘り起こした墓地の棺の下からもう一体の遺体が見つかるという珍しいものでした。
その5か月後、ライトニング・ツリーに括られ石を投げつけられて殺された男が見つかります。ライトニング・ツリーは落雷で枯死した木のことです。トドワラのような細い枝だけの木ということでしょう。
被害者の体全体に宗教的なタトゥーが入っていたこと、教会の主教から「ヨブの子どもたち」という宗教団体の情報がもたらされたことなどから捜査の方向性は決まっていきます。
「ヨブの子どもたち」は表向きは社会に馴染めない人たちの避難所ということになっていますが、実態は子どもたちの矯正を目的とする過激集団でした。
同性愛者に信仰を復活させる転向治療も行われていました。
前半はほとんどがタトゥーの謎と「ヨブの子どもたち」の内偵で過ぎていく感じです。
ライナスという名のインターンがポー、ティリーと一緒に行動していることも重要なポイントとなります。ポーは初対面からライナスを嫌って失礼な態度をとり続けます。
ティリーは相変わらず素晴らしいスキルで捜査に貢献しますが、あまりにも超人スキルになり過ぎてどんな情報も入手可能な状態です。物語のけん引役なのは事実ですがポーの推理が不調な印象にもなっています。
ティリーの天然発言は健在。主教にビッグバンの詳細な説明をするシーンは愉快です。
カンブリア州警察のナイチンゲール警視も登場します。警察内部の軋轢は減少していてライナス以外の捜査陣は充実していると言っていいでしょう。
うっかり忘れてしまいそうになりますが「カラスの夢」はどこでつながってくるのでしょうか。2つの事件は関係があるのでしょうか。このあたりは後半で一気に解明に向かっていきます。
今回は回想から始まり「読者を騙す系」の要素もあって構成の勝利とでも言うのでしょうか、終盤に向かってかなりヒートアップしていきます。
残念なのは凝りすぎてテーマが霞んでしまったことです。
宗教にハマって子どもに自由を与えない両親。同世代の友人との関わりを禁止されているため姉弟の間で芽生える恋愛感情。排他的な信者と支配的な指導者で成立している宗教団体。正義を貫くための拷問。悲惨なシーンが多いのですが重要なメッセージが込められています。
PTSD治療の過程で浮き彫りになるポーの問題点も深刻です。
それでいて決して暗くはならず一気読みしてしまう面白さがあります。相変わらずいい味を出しているポーとティリー、そしてドイルの会話が雰囲気作りに貢献しているためでしょうか、ティーンエイジャーが絡んだ殺人事件にもかかわらず読後感が悪くない作品です。
終盤になってポーとティリーの配属問題が持ち上がり、またまた次作が待ち遠しい気持ちになります(著者の策略に完全に乗せられています)


0 件のコメント:
コメントを投稿