追熟読書会: 「人は変わることができる」というのは嘘ではなかった

「人は変わることができる」というのは嘘ではなかった

※筆字は私が我流で練習しているものです(暖かく見守ってください)

脳地図を書き換える―大人も子どもも、脳は劇的に変わる

生田 哲(著)


大人の脳は変わらないと言われてきましたが、近年は脳科学者も脳が変化するという事実を受け入れるようになっています。「人は変わることができる」というのは嘘ではなかったのです。


この本では、新しい人生を歩み幸福感を獲得するための知識とエクササイズの方法を紹介しています。

💬 最初はキャッチーなタイトルで怪しいと感じるかもしれません。私もそうでした。しかし著者はカリフォルニア大学やイリノイ工科大学で研究をされた薬学博士です。図解や実例も多く、実験方法なども詳細に説明されています。とてもその一つひとつをここで取り上げることはできないほどです。とにかく脳は大人になっても変化するのです。


使われていない「脳の空き地」に新しい能力を植え付ける


脳は細かな領域に分けられ、それぞれの領域は決まった役割があり名前が付けられています。これが脳地図です。

長い間、この領域⇔役割という関係性は変わらないと信じられてきました。

しかし最近発表された研究によって、脳の構造そのものが生活習慣によって変化するだけでなく、毎日脳内で神経細胞が誕生しているという事実が明らかになったのです。

人は変わることができるというだけではなく、環境に適応し、変化し続けることこそ脳の本質だと現在は考えられています。

脳卒中で脳に深刻なダメージを受けた場合など、リハビリ訓練によって脳卒中で倒れる前とほぼ同じだけの活動ができるまでに回復することがあります。

これはダメージを受けた箇所の担っていた役割を他の脳の部分が肩代わりすることによって機能を取り戻すからです。

これまで脳が私たちの考えや行動を一方的にコントロールしているかのように思われてきましたが、私たちの考え方や行動もまた脳を変えるのことができるのです。

脳はダメージを受けた箇所を自ら修復したり、新しい神経細胞を誕生させたり、ある役割を果たしていた箇所に別の役割を割り振ることができます。

脳は持ち主の行動や経験に応じて、よく使われる行動や考えに関わる回路をより強いものにします。一方であまり使われないものについては回路を弱めていきます。


💬 序盤からショッキングな内容が続きます。脳地図の説明から始まり、様々な実験の方法や結果についても詳細に書かれています。興味のあるかたは本書を手に取ってみてください。

 


どうすれば頭がよくなるのだろう


脳が持ち主の行動や経験に応じて変化するのであれば、どうすれば頭がよくなるのでしょうか。

まず第1に考えられるのは環境です。これはネズミの実験からわかったことですが、刺激の多い環境で育つと平凡な環境で育つよりも知能が高くなります。

では環境の何が刺激となり知能を高めたのでしょうか。

実は賢いネズミは「回転する車輪のあるカゴで飼われていたエクササイズするネズミ」だったのです。

当初からエクササイズは有力視されていましたが、最近になってエクササイズが記憶と認知のスピードを改善することによって脳の働きを高めるという証拠がどんどん集まってきています。

それでは人もエクササイズをすれば、知能が高まるのでしょうか。

2007年コロンビア大学の研究で、1日1時間のエクササイズを週4回実行すると、人でも海馬で神経新生が起こっているという証拠が得られました。

神経再生が起こるには、大量の栄養素が血液によって運ばれてこなければなりませんが、実験によるとエクササイズ後は海馬の血流量はエクササイズ前の2倍に達していました。

※海馬は記憶にとってとりわけ重要な器官で、その役割は経験によって得られた情報を一時的に保存し、後にその情報の適切な箇所に保管し、さらに必要に応じて呼び出すことにあります。

💬 これも驚きの内容です。エクササイズで知能が高まる。これはジョギングなどを定期的に行うと脳の海馬に新しい神経細胞が誕生するということです。一番に考えたことは、冬は外でジョギングなど絶対できない北海道民はどうなるのかということでした。おそらくその答えは家の中で走る、またはジムに行くということなのでしょう。しかし私は知能向上のためにジムに行くという発想にはならないように思いました。何か他に方法はないのでしょうか。

まだ全体の4分の1ほど読んだだけです。次は人間の脳の柔軟性についてです。 



人間の脳が持つ驚異的な柔軟性


赤ちゃんの脳には驚くほどの可塑性があることが知られています。
※ここで言う可塑性は環境の変化にうまく対応できるという意味です。

赤ちゃんの脳がこれほどの可塑性を持つ理由は2つ考えられます。

1つ目は、脳内の神経細胞がまだ成長しきっていないため、脳の各領域が持つ役割がまだ決まっていないからです。

2つ目の理由は神経細胞と神経細胞の繋がりであるシナプスが過剰に存在するからです。1歳の赤ちゃんの脳には母親の2倍もの神経細胞とシナプスが存在します。

神経細胞とシナプスの過剰状態から出発した人の脳は3歳を過ぎる頃、特別なプロセスによってシナプスを失い始めます。

頻繁に活用されるシナプスは生き残り、使用されないシナプスは死滅します。どんな環境にでも対応できる赤ちゃんの万能の脳はシナプスの減少とともに、順応性に限界のある古い脳へと移行していくのです。

最近の研究によって、シナプスや樹状突起は25歳になるまで、大人のものと同数にならないということがわかってきました。脳は生後25年間も成熟しないのです。

25年の間に脳を成長させるチャンスは2度あることがわかっています。

第1のチャンスは10歳頃まで。この時期に目や手足の協調を身につけたり、論理的に考えたり、空間的な配置を理解する習慣を身につけます。

勤勉に練習を積むことによってこれらの能力に関する神経回路は栄え、永続的なものとなります。

もし子どもが10歳頃になってもこれらの能力を身につけていなかったとしても、第2のチャンスが用意されています。次の15年で脳に認知や他の能力を発達させるための神経回路を構築すればよいのです。

💬 ここでは、シナプスの生き残りという話が出てきます。胎児のとき、子ども時代、大人になってからのシナプスの数が具体的に説明されています。過剰状態のシナプスは、木の枝を庭師が剪定するかのように刈り込みが行われていくそうです。またこの章では遺伝子のことにも触れています。シナプスや脳の回路の形成は遺伝子の影響はかなり少ないとのこと。学習や経験を通して必要なシナプスを形成し機能的な回路を作っていくそうです。赤ちゃんの言語能力と言語発達の臨界期についても書かれています。早期教育に興味のあるかたには参考になると思います。 


習慣、訓練によって脳地図が書き換わる


脳卒中患者の麻痺のない側の手を三角巾で覆うなどして使えなくすると、必然的に麻痺した手を使わざるを得なくなる。このような必然性に導かれる合理的なリハビリ方法を、CI療法(強制使用法、強制運動療法)といいます。

このCI療法は、当初リハビリ協会から受け入れられなかったのですが、劇的な効果を示したことにより現在では有効性が明らかとなり活用されています。

脳の特定の領域がダメージを受けると、その領域が担っていた機能は健康な領域がカバーするのです。

代替方法としては次のようなものがあります。
  • 脳のダメージがそれほど大きくない時は、隣接する脳の領域が肩代わりする
  • 脳のダメージがやや大きい時は、やや離れた領域が肩代わりをする
  • 脳の一方の半球のダメージが壊滅的である時は、もう一方の半球がその役割の肩代わりをする

 💬 脳の役割の代替を説明するために、生まれつき全盲の人は耳がよくなる等の話も出てきます。脳卒中のリハビリや幻肢痛のことも割と詳しく書かれていますが重要なのは脳は失われた役割を肩代わりするということです。リハビリの詳細などは細かい部分まで読む必要はないように感じました。次はやっとというべきでしょうか、私たちの日常に関係してくるトレーニングの話になります。 

 

メンタルトレーニングで脳が変わる


メンタルトレーニングはスポーツの世界では欠かせないメニューの一つです。

スポーツ選手のメンタルトレーニングはこれから起こることを視覚化するトレーニングです。頭の中で一度見たことが実際に起きたとしたらどうでしょう。そのときは考えることなく行動できるはずです。いざというときに躊躇することがないというのが視覚化のメリットです。その競技に関わる動作を実際に実行しているかのごとく脳内でできるだけ鮮明にイメージすることです。

視覚化は運動の質を高めるだけではなく、集中力を高め、競争におけるストレスを軽減し、競技者の自信を高めるのにも役立つことが多くの選手たちによって経験的に証明されてきました。

ではなぜ、メンタルトレーニングは効果的なのでしょうか。



視覚化するだけで脳地図は書き換わるのか


ピアノ初心者を対象とした研究があります。
2つのグループに分かれ、1つ目のグループは実際にピアノを1日2時間弾いてもらいます。もう1つのグループは心的訓練(イメージトレーニング)を行います。実際には弾かないで1本1本の指の動きを頭の中でなぞって曲を思い浮かべてもらうのです。これを5日間続け、どれほど上達したかを比較します。

結果は、両グループとも指に対応する運動野の同じ領域が同じだけ順調に拡大していました。

メンタルトレーニングは実際の訓練と同じ活性化をさせるのです。

こうしてスポーツ選手が実践してきた視覚化というイメージトレーニングが脳地図を書き換えることによって、競技力の向上という効果を発揮することが初めて科学的に証明されたのです。

💬 この研究が発表されたのは1995年とのことです。割と早くから証明されていたにもかかわらず一般にはあまり知らていないという印象です。何となく怪しい理論と感じる人もいるのでしょう。それでもこういう研究結果を知っていればさまざまなことに役立つように思います。メンタルトレーニングは強迫性障害の治療にも活用されているそうです。また関心を向けていない事柄は脳地図が書き換えられないこともわかっています。




メンタルトレーニングで幸せになる


幸福については、次にような2つのことがわかっています。
  1. ある人は幸福を感じやすいが別の人は不幸を感じやすい
  2. 脳の活動パターンはメンタルトレーニングによって大きく変わる

さらに幸福には3つの要因があります。
  1. 何のために生きるかという目的意識
  2. 人生を自らコントロールしているという実感
  3. あるがままの自分に受け入れ
人生では誰しも思いもよらぬ危機や困難に直面することがあります。七転び八起きするしかない人生には強い心が欠かせませんが、幸いにも今までの研究から感情をコントロールする大脳辺縁系の地図は書き換わることがわかっています。

人はさまざまな状況に置かれた自分を思い浮かべることができ、そのイメージによって感情がコロコロ変わります。この変化は前頭葉で何を想像するかで決まるのです。

ウィスコンシン大学の研究により、左側の前頭葉の活動が右側より著しく高い人は元気と熱意と喜びなどのプラス感情が多いということがわかっています。このタイプの人は人生を楽しむため幸福を感じやすいのです。

前頭葉の活動は大人になると可塑性が消えていきますが、この可塑性は正しい刺激さえ与えれば戻ってきます。

考え方を変える有効な手段の代表が瞑想によるメンタルトレーニングです。

瞑想は神秘的な宗教集団や高度な修行を積んだ僧侶の専売特許ではありません

💬 幸福論へと発展していきましたが、哲学や心理学とは違った視点で前頭葉の働きを絡めて説明しているので説得力があります。感情には特定の傾向があり、人が感じる幸福の度合いは大体決まっているという考え方は面白いと思いました。




瞑想は心の筋トレ


心にも訓練が必要です。瞑想は心を集中させ心を鍛える効果があります。

何かに心を集中させることにより注意をその一点に注ぎ、妄想や雑念が発生してもすぐ心を集中に戻す。この作業を繰り返す訓練が瞑想なのです。

元々私たちの脳は、何かに集中しなければ思考が分散して、あてどない旅をするようにできています。


瞑想の方法は2種類あります

  • 物事をありのままに見る「気づきの瞑想」
自分が感じている感覚(手や足の感覚)を実況中継する。今の瞬間だけに集中し自分が行っていることを確認する。

  • 心を落ち着かせる「リラクゼーションの瞑想」
呼吸に集中したり、数を数えたりして集中する


集中力が高まると注意が一点に絞り込まれ、脳への情報の入力が強化されるため記憶力が高まります。

さらに新しいアイディアを生み出す創造力も培われます。瞑想で物事をあるがままに見ていけば固定観念にとらわれることもなくなるからです。

その他、悪い癖や依存症から立ち直るのにも瞑想は絶好の手段となります。


💬 瞑想と聞いただけで怪しいと感じる人も多いと思いますが、実は科学的に効果は証明されています。海外では宗教的な要素を排除してマインドフルネスとして実践する人が増えています。日本は古くから瞑想が仏教思想の一つとして知られているがゆえにマインドフルネスの良さもなかなか浸透しなかったのかもしれません。残念なことに日本人が躊躇しているあいだにGoogleなどの有名企業で次々と社員研修に取り入れられて有名になりました。呼吸法だけでも効果があるのですが日本で広がりをみせていないことは本当に残念です。

 💬 何となく脳地図という言葉に惹かれて読み始めました。最初はやはり少し怪しい本なのではないかという思いがあったのですが、読み進むにつれ脳科学と身近な話題が合体しているので納得感が増してきました。図解が多くて専門用語は少ないのが特徴といっていいでしょう。しかし同じような実験が何度も繰り返し出てくることで少々混乱したのも事実です。

 💬 本書が出たのは2012年。その後も脳科学の本が次々と出版されていますので他の本も読んでみたくなりました。もっともっと知りたい気持ちになっています。



シナプスに興味のあるかたは 「こころ」はいかにして生まれるのか  のレビューを参考にしてください。






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