出口 保行 (著)
大学で心理学を教える著者の出口さんは、以前は法務省に心理職として22年間在籍していた。少年鑑別所、重大犯罪者を集めた刑務所、拘置所での勤務経験がある。
少年鑑別所で多くの少年たちを見る中で、ある意味では親をはじめとする大人たちの犠牲者だと感じることもあった。その少年が1人で勝手に悪くなったわけではない。本書はこれまでの経験を子育て本として1冊にまとめたものである。
まず最初に
『犯罪心理学における心理分析とは』
- 現場で行っている具体的な心理分析は、まず1対1の面接、心理テスト、行動観察の3つである。
- 警察の取り調べは客観的事実を時間軸に沿って追っていく。一方、心理分析で重要なのは主観的現実。本人がどう捉えたかが問題。はたから見ると些細な出来事であっても、本人にとっては大きなショックだったということは実際にあり得る。
『子育ての大前提』
- 社会に出てから困らないように最低限のルールを教えるのは親の務めである。
- 少年院の先生たちが、非行少年の親に対して問題だと感じていることを聞き取ったデータがある。
第1位は「子どもに対する責任感がない」62.5%
第2位は「子どもの言いなりになっている」50.2%第3位は「子どもの行動に無関心である」49.1%
という結果になっている。
『保護者の思い』
- 一方、少年院に入った子の保護者に子育ての問題点を聞いた結果は次のとおりである。
第1位は「子どもに口うるさかった」
第2位は「夫婦の子育ての方針が一致しなかった」
第3位は「子どもの好きなようにさせていた」
続いて僅差で「子どもとの会話が少なかった」となっている。
第1位は母親の7割が回答している。
『確証バイアス』
- 確証バイアスとは、自分に都合のいい情報ばかりを無意識に集めてしまうことを言う。子育てに関しては特に確証バイアスが働きがち。子育てや家庭の中のことは周りが口出ししにくいからである。
『親子の信頼関係こそが大事』
- まず一方的な押しつけになっていないかを考える機会を持ち、話し合う姿勢を示す。
- 子育ての方針、こうなってもらいたいという考えを折りに触れて見直し、方向転換することをきちんと子どもに話す。親だって間違うことはある。完璧な人間はいない。
- 信頼関係さえあれば人生の中で起こる様々な危機を親子で一緒に乗り越えていけるはずである。
◆実はここまでは序章で導入部分である。このあと第1~6章までNGワードに沿って具体的な話に入っていくが、ほぼ序章を読めば内容はわかってしまう感はある。以下、繰り返し出てくる内容は省略しながらポイントを絞ってまとめていくことにする。結論から言えば、親の「よかれと思って」が子どもには「いい迷惑」になるという一文に尽きる。家族の在り方に平凡や普通などというものはない。家族の中で認識がずれてボタンの掛け違いがおきないようブランディングしてかけがえのない家族になろう。そのためには愛情を持って真剣に向き合っていくことである。これは家族に限らず会社でも友人関係でも同じだと感じた。結局は話し合える環境であるかどうかなのだろう。
第1章『みんなと仲良く』
- みんなと仲良くしなさいと言われ続けると自己主張ができなくなる。周囲の反応を伺いながら生活している子は自己決定する力が弱い。人に合わせることは得意でもこれは悪いことだからやめておこうという判断もできなくなっていく。
- 合わない人に合わせる必要はないし仲良くする必要もない。これは差別とは別の話。差別とはその人の属性によって不当に低く扱うこと。しかし人権を守ることとみんなと仲良くするのとは違う。
- 嫌いな人とどう付き合うか、そこで鍵になるのは心理的に距離を取ること。しかしこれは経験の少ない子どもにとっては難しい。子どもが自分で考えるためのサポートが必要になる。
- 「みんなと仲良く」を押し付けると、実際にはできないのでギャップに苦しみ必ず問題が出てくる。もし子どもにガミガミ言ってしまったとしたらフォローをする。それだけで大きな差が出る。
第2章『早くしなさい』
- 非行少年は短絡的な思考に支配されている。事前予見能力が乏しい。いわゆる先を読む力が不足しているということ。
- この事前予見能力は生まれながらに持っているものではなく発達の中で身につけていく。「早くしなさい」と子どもに対して言ってしまうと、子どもはその場では何とかしようとはするが、自分で判断することはできない。常に場当たり的で後先を考えない刹那的な思考になっていく。
- 事前予見能力が育っていない子は、いきなり将来のことを言っても考えることができない。まず内省をして現状を理解する。自分についてじっくり考えること、ネガティブな事態について原因を追究しようとする反省とは違い、ありのままの思考や感情を見つめるのが内省。客観的に振り返って分析し気づきを得ることを目的にしている。過去を振り返ってむやみに反省を促すことではない。
第3章『頑張りなさい』
- 頑張ってという言葉自体はポジティブなものであっても、被害感や疎外感が強い子は否定的に受け止めることがある。
- 頑張ってという言葉は意欲を持てという意味で使われることがある。やる気は自分の内側から出てくるもので、他者から植え付けることはできない。しかし意欲を促すことはできる。心理学でこれを動機づけという。上手く動機づけをする、そしてたとえ結果が良くなかったとしてもプロセスを褒める。
- 「頑張って」ではなく、頑張っているね、よく頑張ったね、と認めることが応援になり意欲を伸ばすことになる。むやみに頑張れというのではなく、きっと良くなると希望を感じさせてあげることが大事。
第4章『何度言ったらわかるの』
- 自己肯定感とは、ありのままの自分を肯定できる感覚のこと。この自己肯定感を蝕む要因として「何度言ったらわかるの」という言葉がある。
- 自分を肯定し大切にするというのは自己中心的なものとは全く違う。どうせ自分なんかという言葉が非行少年や犯罪者と面接しているとよく出てくる、強そうに見えても、頭が良くても、自己肯定感の高い非行少年はいない。大げさに褒められると逆に自分をコントロールしようとしているのではと不信感を持つような子もいる。「何度言ったらわかるの」と言いたくなったときは自分の思い込みに気づくチャンス。こうあるべきという思い込みが怒りの源になっているなら、それに気づくことが解決の第一歩になる。
第5章『勉強しなさい』
- 勉強しなさいと繰り返し伝えることは、ある程度までは効果がある。しかし逆の面もある。心理学でいうブーメラン効果である。ブーメラン効果が起きやすい条件は2つ、1つは説得者と同じ意見であるとき。勉強しようと思っているときに勉強しなさいと言われるとやりたくなくなる。もう1つは説得者を信用していないとき。逆に信頼している人から○○しなさいと言われれば、強制されているとか自由が侵されているとは感じない。
第6章『気をつけて』
- 何でも先回りして「気をつけて」と何度も制止すれば子どもは経験のチャンスを失う。経験にはポジティブな面もネガティブな面もあり、失敗して落ち込んだり嫌な気持ちになったりすることだってある。しかしそれが成長の糧なのである。
- 失敗したときはリカバリー方法を一緒に考える必要がある。子どもの言い訳は自分の心を落ち着かせるためにやっていることが多い。その子の心を守るために重要なもの。そしてとことん言い訳をすれば自分でも矛盾を感じるようになる。
◆以上、簡単なまとめをしてきた。途中で犯罪心理の結構難しい説明が唐突に差し込まれているため、話の幹がわかりづらい点があった。一旦はサラリと読み飛ばした部分で気になったところ、犯罪心理について2つピックアップしてみた。
①センセーション・シーキング(刺激を求め続けること)
- センセーション・シーキングには新しいことに挑戦したり人生を豊かにしていけるという面があるが、良くない方向に出てしまうと大変なことになる。
- 普通の遊びや部活、習い事にハマることで、センセーション・シーキングを満たすことができる。普通の生活がつまらない。自分の興味関心を抑圧されていることが非行の背景にある。
②拡大自殺
- 人生に絶望し自殺願望を抱いた者が、他人を巻き添えにして無理心中を図ろうとすることを拡大自殺という。自分1人で死ぬのは嫌だという気持ち。自分では死にきれないので死刑にしてほしいという気持ち。こんなに自分が追い込まれたのは社会が悪いからだという気持ち。その恨みを晴らすために関係のない人を巻き込んで無差別に人を殺傷しようとするもの。
- 一部の人たちは自分の影響力を社会に知らしめるため、他人を巻き添えにしようとする。周囲の大人たちは視野狭窄に陥っている子に他の選択肢があることを教えてあげなければならない。
- 人を殺したいくらい憎く思い、殺害の妄想をしたことがある人は多いのではないだろうか。動機を持つこと自体は構わない。動機を持っている人はいくらでもいるが、ただやっていないだけである。実際にやるかやらないかが問題なのだ。その憎しみに寄り添わなければ問題は解決しない。むしろエスカレートしくていく恐れがある。
- 犯罪の動機はあっても、普通は実行には移さない。リスクが高い上に失うものが大きすぎるからである。犯罪の計画を立てている最中にも、家族の顔が思い浮かんで悲しませるだろうと思えば踏み止まるはず。これは家族との間に信頼関係があることが前提である。
◆先日、ドーパミンに関する本を読んだがセンセーション・シーキングと同じような内容が書かれていた。ドーパミンは可能性と期待に反応する。ドーパミンは善し悪しを判断せず「もっと、もっと」と刺激を欲する。ドーパミンには欲求ドーパミンと欲求を制御する制御ドーパミンがある。この2つは同じ脳内物質だがドーパミンがどこに反応するかで役割が変化する。ドーパミンが反応する受容体の数や質で性格がある程度決まるそうだが、これは遺伝に左右されるとのことである。ドーパミンの働きを良き方向にむける手段として趣味などに没頭する方法が紹介されていることも共通している。このドーパミンの本は2度読んでもまだまだ理解しきれていない。再読して理解が深まったときは、まとめをこのブログに掲載したいと考えているが今回はタイトルと書影のみの紹介とする。
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