2023/09/19

少女ポリアンナ

 


エレナ・ポーター (著)

児童書として大変有名な作品だが、ストーリーの概要を知っている程度で未読だった。最近になってポリアンナ話法(効果)や、ポリアンナ症候群という言葉を聞くようになったのでチャレンジしてみた。

ザックリ表現すると、ポリアンナ話法とはどんな状況でもポジティブな面を探すこと。ポリアンナ症候群は過度な楽天主義に陥ることである。

心理学的な考察が非常に面白いが、せっかく興味を持って読んでみたのだから、まずは小説のあらすじを記すこととする。


『少女 ポリアンナ』

11歳で孤児になったポリアンナは母の妹ミス・ポリーの家に引き取られた。

ミス・ポリーは姉と結婚した貧しい牧師を憎んでいた。そのため姉夫婦の娘ポリアンナのことも義務感で引き取っただけという有り様。屋根裏の酷い部屋をあてがって何もかもお手伝いさんのナンシーに押し付けようとしていた。

ところがポリアンナはどんなものにでも嬉しく思えることを見つける「嬉しい探しゲーム」をしていたのでミス・ポリーの不機嫌さをあまり気にせずに過ごしていた。嬉しくなることを探していると嫌なことを忘れてしまうからである。

毎日の日課を決められて自由を奪われそうになったポリアンナは「息をしているだけでは生きているとはいえないわ」と遊ぶ時間を確保するべく交渉した。まず野良猫を、次に野良犬を拾ってきて「親切なおばさんは絶対に飼うことを許してくれるわ」と言い切った。ミス・ポリーの不機嫌に辟易するナンシーを明るい生活に導いた。近所で偏屈で有名な男性を懐柔して施設から孤児を引き取らせた。病気で寝たきりの女性に編み物の楽しさを思い出させた。などなど天真爛漫に「嬉しい探しゲーム」をしながらポリアンナは日々を過ごしていた。その一方でミス・ポリーは困惑し、なんとか距離を置いた生活をしようと務めていた。

そんなある日のこと、ポリアンナは交通事故にあって歩けなくなってしまう。もうこのまま一生歩けなくなるかもしれない。さすがにポリアンナも落ち込みから抜け出せない日々が続いた。もともと明るい性格だったわけではない。父親に「嬉しい探しゲーム」を教えてもらってから一生懸命にそのゲームをしてきたのだった。

いつのまにか深い愛情を感じるようになっていたミス・ポリーが始めた「嬉しい探しゲーム」…これがポリアンナの心に明るさを取り戻すきっかけになった。

実はミス・ポリーはまだ40歳。ポリアンナのおかげで喧嘩別れした恋人とも仲直りして若さと愛の感覚を取り戻したのである。ミス・ポリーは、遠方の医師の診察を受けさせるため、ポリアンナをベッドに寝かせたまま車と馬車で療養所に運んだ。治療の甲斐あってポリアンナの足は快方に向かっていく。

本書は快方に向かうポリアンナの喜びの手紙で終わっている。再び元気になった姿は「ポリアンナの青春」という続編で読むことができる。


◆児童書ということもあり、わかりやすい内容である。しかし決して楽天的なだけはない。努力が必要なこともしっかり書かれている。今まで本書を読まなかった理由…それは私は「赤毛のアン」が大好きだから。アンと似た作品だと考えてしまったからである。確かにアンとの共通点も多いが、アンには生まれつき天然の明るさがある。ポリアンナは努力して明るく振る舞う普通の子どもであるからこその親近感がある。


ここからは心理学的なお話。

『ポリアンナ話法』

  • 一生懸命に探せばどんなことにも良いところは見つけられる。亡き父の教えを守るポリアンナ。お葬式のときや誰かに心配をかけたときは無理にポジティブに考えないなど、いくつかのルールも出てくる。
  • 今回、本書を読むきっかけになったのはHSPアドバイザーのRYOTAさんがvoicyという音声配信でポリアンナ話法のことを話していたからである。
  • その配信のなかで、ポジティブトークを続けていると、嫌な相手がイライラして離れていく効果もあると話されていた。確かに、いつも前向きな言葉を使っているとネガティブな人が近寄ってこない良さがある。ネガティブはネガティブを呼び込むような感覚も納得の内容だった。

※RYOTAさんのvoicy→『心理学』ポリアンナ話法で人間関係の距離を整えよう


『ポリアンナ症候群』

  • 一方で、ポジティブトークの落とし穴もある。それは現実逃避。大きな問題が起きているのに直視しないようになる。また自分より大きな問題を抱えている人を見ると、その人と対比することで安心してしまうなどマイナス要素も出てくる。
  • ポジティブ心理学を提唱したマーティン・セリグマンは著書「オプティミストはなぜ成功するのか」の中でネガティブの重要性も説いている。

「オプティミストはなぜ成功するか」のレビューはこちらから

  • 職業によってはネガティブが絶対に必要な場合もある。鋭い現実感覚を要求される仕事。専門的な技術が必要な仕事などである。いや、どんな仕事でも慎重を期する適度の悲観主義は必要なのかもしれない。
  • また問題が短期的か、長期的かでネガティブに考えた方がいい場合、ポジティブに受け取るべき場合が分かれてくる。悪いことを「いつも私は…」と受け留めると何をやっても上手く行かない。その反面、ポジティブに考えることで根拠のない自信を持ってしまうこともある。
  • どんなことにも二面性がありバランスが大事ということなのだろう。セリグマン博士は「楽観主義は賢さを補佐するもの。ツールであって楽観的なだけでは意味がない。楽観主義は身につけて必要なときにだけ使う」と説明している。
  • ポリアンナの凄いところは、ゲームであると認識していること。状況に合わせて使えていること。悲観主義から抜け出すスイッチとして「嬉しい探しゲーム」という言葉を言っていることである


『聖書の言葉』

ポリアンナの亡父が牧師ということもあり聖書の引用が出てくる。私はキリスト教徒ではないので、海外作品に出てくる聖書の言葉に戸惑った時期もあった。しかし今ではどんな宗教であっても人生訓になる言葉であればそのまま受け取っていいと思っている。まだ若かったころに大好きな三浦綾子さんの小説を読むためにキリスト教のガイドブックを読んだこともあった。しかし小説の面白さはそこではなかった。もちろん小説から信仰に入る人もいると思うが、日本人らしい適応力で信仰よりも哲学的に聖書の聖句を読んでもいいのではないだろうか。本書には難しい聖句は出てこないので宗教に苦手意識のある人でも大丈夫。


少しでもポリアンナ話法に興味を持ったならば、まずは、子どもの本だからと思わずにチャレンジしてみてはどうだろうか。暖かい気持ちになることは間違いのない作品である。







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