ケイト・リンヴィル
スコットランドヤードの刑事。巡査部長。シリーズスタート時点で39歳。夫なし、子供なし、恋人なし、友人なし。他人と関係を築くことが苦手。職場内には「ケイトのやることなすこと全てがどこか間違っている」と感じさせる何かがあり、自分に自信が持てず悶々とした日々を過ごしています。小柄で華奢で目立たないことも悩みの一つ。
リチャード・リンヴィル
ケイトの父親。
ヨークシャー警察元警部。妻を病気で亡くし、退職後は長年一緒に働いた同僚も離れていき孤独な日々を過ごしています。ケイトの一番の理解者。
ケイレブ・ヘイル
スカボロー警察署の警部。ケイトの父リチャードと一年ほど一緒に仕事をしたことがあり、ケイトのことはあくまでもリチャードの娘であり恋愛対象とはみていません。アルコール依存症の治療を受けるため入院していたことがあって表向きは完治したことになっています。しかし時々プレッシャーに耐えられなくなると仕事中にお酒を飲んでトラブルを起こしています。妻と離婚し子どもなし。大きな家で一人暮らし。
ロバート・スチュワート
スカボロー警察署の巡査部長。ケイレブの部下。切れ者という感じではないが、仕事ができないわけでもないという平均的な警察官。わりとシニカルな一面を持っていてケイレブが暴走しそうになったときのストッパー役になることもあります。
コリン・ブレア
2作目でケイトとマッチングサイトを通して出会います。初登場時点で45歳。週4日はジムに行き外見を整え、常に自信満々な態度で周囲を圧倒していきます。2人の間に恋は生まれずカップルにはなりませんが、人との社会的な繋がりをうまく持てない人間同士が完全な孤独に陥らないために週末に時々会う関係を築いていきます。ケイトの唯一の友人。
裏切り 上
名警部だったリチャード・リンヴィルが惨殺され娘のケイトは深い悲しみに沈みます。
ケイトは自分で調べられる範囲で父の過去と事件関係者を調べ始めるのですが、捜査責任者のケイレブ警部は当然面白く思わず、すぐに諍いが始まります。
ケイレブ警部の活躍にもかかわらず次第に捜査は行き詰まっていきます。そんななかでケイトは父の知り合いだった女性メリッサから会いたいという連絡を受けます。ところがケイトが会いに行ったときには、すでにメリッサは父と同じ方法で惨殺されていました。
メリッサの周辺捜査で父にも大きな秘密があったことがわかってきます。まさか父が母以外の女性と交際していたとは。
大きな衝撃を受けたケイトの心情に理解を示しサポートするのは女性警官スカピンでした。スカピンとケイトは急速に距離を縮めていきます。
もう一つのストーリーとして脚本家夫妻の養子縁組が並行して語られていきます。養子とその実母との関係、実母と恋人の関係などが複雑に絡み合いあい、この辺りからザワザワ感が満載になってきます。
リチャードの事件の凄惨さ、意外な秘密の露呈、余りにも大きな悲しみを背負うケイトに感情移入しないではいられなくなります。
ケイトが決して美人ではないこと、印象に残るような特徴も華やかさもないこと、深く踏み込んだ会話が苦手なこと。その一つひとつは読者と等身大の悩みといってもいいのですが、ケイトがケイレブ警部に好意を抱いていることがなんとも切なくなります。
とにかく上巻では何一つ解決には向かわず複数のストーリーが同時進行で進んでいきます。登場人物表もなく次々と人が増えていきますが混乱せずに読んでいけるのが不思議です。
さて、これらはどう繋がっていくのでしょうか。
裏切り 下
父の裏切りを知ったケイトはショックを隠せませんが、それでも事実を知りたいという思いから父の家を片付け書類を整理しはじめます。
そこでリチャードの元同僚ダウリックの住所が見つかり合いに行くケイトですが、またもや悲惨な事件に遭遇することに・・・
相変わらず複数のストーリーが並行して進みますが、次第に絡み合って繋がっていきます。
ケイトは事件終息とともに家族の病を卒業して一歩踏み出していきます。この父娘の問題はケイトが親離れできず境界線を引けなかったことが原因だったのでしょう。
下巻に入ってもう一つの家族の物語、障害のある弟と暮らすスカピン刑事の悪戦苦闘の日々が語られます。刑事としての優秀さとプライベートでの深い悲しみ。この2つの視点で新たな物語は展開していきます。
全体的には事件の内容と心理描写のバランスの良さ、アクションシーンの少なさが読みやすさに繋がっている印象です。アルコール依存症のケイレブ警部とケイトが安易な恋愛に走らなかったことも好印象です。
ケイレブ警部のアルコール依存症はストレス解消法という意味だけではなうようです。過去には酔っているときほど脳が働いて閃きがあったとのことで、今後も何かしらトラブルを起こしそうな余韻を残しています。
とはいえ、ケイレブの弱さやケイトの抱える生きづらさが読者にとっては感情移入できるところなのでしょう。
誘拐犯 上
2017年、前作から3年が経過しケイトは42歳。相変わらず独り身。
ケイトは父の家を売ることができず貸していましたが、賃貸人が家を滅茶苦茶に汚して行方不明になるという悲劇が起きます。
再びヨークシャーを訪れたケイトを待っていたのは家の修復だけではなく、宿泊先の宿で起きた少女行方不明事件でした。
今回も複数の事件が並行して語られていきます。
2013年、父と二人暮らしの少女ハル(14歳)が祖母の家からの帰りに行方不明に。
2016年、雨の夜に友人と会ったあと少女サスキアが見知らぬ男の車に無理やり乗せられて誘拐される。1年後にムーアで遺体発見。
2017年、ケイトの宿泊先オーナーの娘アメリー(14歳)は母と買い物にいったスーパーの駐車場で行方不明に。
さらに実母に反抗して家出した少女マンディの危うい逃走劇が語られていきます。
果たして同一犯人なのでしょうか。
ケイトはなるべく行方不明事件に関わりたくはなかったのですが、結局ケイレブ警部と再び遭遇することになります。意外なことにケイレブはケイトに優しく接しスカボロー署への移籍を勧めます。
容疑者が次々と浮かびシロと判定され捜査の方向性も定まらないままストーリーは進んでいきます。さらにケイト自身の問題も解決には向かわず、亡き父との思い出と孤独と家の処分に押し潰されそうになります。
唯一の救いは賃貸人が置き去りにした猫のメッシーが新しいご主人ケイトに懐いていることでしょう。
※ムーアとは
前作でもムーアが出てきました。今回もムーアで少女の遺体が見つかっています。スカボロー近郊に「ノース・ヨーク・ムーアズ国立公園」がありますが、このシリーズではムーアは地名ではなく単に「湿原」の意味で使われているようにも思われます。スカボロー近郊の湿原地帯ということでしょうか。
※スカボローはどこ?
イングランド・ノース・ヨークシャーの北海海岸沿いの大規模な居住エリアの一つ。タウンの人口は約50,000人で、ヨークシャー海岸では最大の休日のリゾート地でもあります。
中世の頃から交易港として栄え、夏季には大規模な市場(フェア)が立ちます。『スカボロー・フェア』という曲が、1967年の映画『卒業』の挿入歌として用いられ世界的に有名になりました。
ケイトの育った家はスカボロー郊外のスカルピーにあります。地図で確認するとスカボロー中心地から数キロ北上したところにある緑豊かな住宅地です。家は1階にキッチンとリビングとダイニング、2階に寝室が3つとバスルーム、それにかわいらしい小さな庭があると書かれています。
そんな素敵な土地で起きた連続少女誘拐事件。下巻でどんな展開が待っているのでしょうか。
海外小説を読むときに、舞台となった土地や背景情報を調べると楽しみが増えますが、『スカボロー・フェア』をYouTubeで聞いて、再び本に戻るとケイトの孤独に一層寄り添うことができるように感じました。
誘拐犯 下
ケイトは記者になりすまして第1の事件でハナを車に乗せた青年やハナの父親など次々と訪ねて話を聞きます。しかしなかなか核心に迫ることはできません。
▶ウェルネス・ホテルの週末宿泊券は2枚ありました。ここで前作で知り合ったコリンが登場。事件解決に貢献しようとして実にコリンらしく物語を引っ張っていってくれます。