ネロ・ウルフは1933年から1975年まで活躍したニューヨークの『架空の』私立探偵です。
海外ではシャーロック・ホームズと並んで人気が高く、エラリー・クイーンのライバルとも言われています。
私がはじめて読んだウルフ作品は古本屋さんで何となく購入した「料理長が多すぎる」です。
15人の食の巨匠(名料理長)が腕を披露するイベント会場が殺人現場になります。食の場そのものが舞台となっている点だけでもレアで面白い作品なのですが、美食とビール三昧のウルフを満足させる料理の数々が凝りに凝っている点も楽しめます。
とにかくこの1冊でウルフの魅力に取り憑かれた私は、他の作品も読みたくなり文庫本を探して買いました。
文庫本を何冊か読んだあとは、ポケミスの古本を探して買い、
次はウルフの短編作品が載っているミステリアンソロジーを買い、
ビッグ・アップル・ミステリ「殺人は笑いごとじゃない」
16品の殺人メニュー「毒薬ア・ラ・カルト」
クリスマス12のミステリー「クリスマス・パーティ」
いぬはミステリー「真昼のいぬ」
EQMMアンソロジーⅡ「ワールドシリーズの殺人}
※電子書籍で出ている復刻版はアマゾンの Unlimited(月980円のサブスク)で読むことができますので興味を持たれたかたはぜひ読んでみてください。
なぜそこまでハマったのでしょうか・・・それには二つの側面があると思っています。
一つは、ウルフの偏屈な性格、100キロ超えの巨体でビールと美食三昧の生活をしている風変わりな人物像にあります。それでいて実は大変な教養の持ち主でもあります。作中で披露される幅広い知識、しっかりと作り上げられた人物像はシリーズを通してブレることがありません。
もう一つは、語り手であり助手兼ボディガードでもあるアーチー・グッドウィンの明るく洗練されたキャラにあります。アーチーは偏屈なウルフの代わりに来客をもてなし、ほとんど外出しないウルフの手足となっています。
推理が外れたり、思わぬ方向に事件が向かうとウルフは現実逃避して料理以外のことに興味を示さず、子どものように振る舞って何日間かを過ごします。アーチーがいかに大変であるか、アーチーこそ主人公だと考えるファンも存在します。
アーチーの他にも複数名の調査員が情報収集係として働きウルフは自室で推理を完結するという具合です。安楽椅子探偵のジャンルに入ります。
それでは、このあとはウルフとはどういう人物なのかをさらに掘り下げていきながら何冊かの作品を紹介していきます。
ネロ・ウルフとは
美食家
アーチーによるとウルフの身長は180㎝、体重は7分の1トン(約140㎏)とのこと。ウルフは秤に乗ったことがないのでアーチーはこのような曖昧な表現をしています。大変な美食家で自宅に優秀なシェフを住み込みで雇って日々の食材や調理法にまで指示を出す凝りようです。
ウルフ好みの料理は簡単に真似できるような料理ではありません。そのうえ凝った食材を調達することなど私たちには困難です。あくまでも読んで楽しむ料理と考えていたのですが、アメリカではウルフの料理本が出ているそうです。
※EQ MAR.’86NO50に掲載されている「ネロ・ウルフ特集」によると1973年にヴァイキング・プレス社から刊行されています。
ビール好き
ウルフは一日に5クォーツ(約5リットル)のビールを飲んでいます。長編1作目「毒蛇」の冒頭では樽で買って地下室の冷蔵庫に入れている密造ビールを飲んでいます。
ビールへのこだわりも大変なもので、市販の合法的なビールに変えるため料理人のフリッツが12軒の酒屋を回って50種類近い瓶ビールを購入して試飲して銘柄を決めています。
ビールと美食で体は大きくなり続けていますがウルフ自身は感情が入り込まないように脂肪をつけていると語っています。かつて感情に支配されすぎたことがあるからという理由だそうです。ウルフは妻に殺されそうになったことがありますので、おそらく刃物で刺されても脂肪が保護膜になってくれることを期待しているのでしょう。
蘭の花の愛好家
ウルフの家の屋上には1万株の蘭を育てている植物室があり、毎朝9時~11時までと夕方4時~6時までの計4時間を植物室で過ごしています。この時間帯は警官や大事な依頼人が来ても対応せず待たせておくほどの入れ込みようです。
蘭の管理のために園芸係のシオドアを雇って、本格的な交配も手掛けるなど趣味の域を出た凄さがあります。
ではなぜウルフは蘭が好きなのでしょうか。EQ1978年7月号で著者レックス・スタウトがインタビューに答えています。ウルフは花を見るより新種を作り出すことのほうが好きとのこと。一日に百種類もの花が咲く植物室は色に圧倒されてしまうとも語っています。
また、沈黙を守らなければならないことが多い職業であることから、植物室にいるときだけは花に話しかけて癒しを求めているのではないかとの憶測も出ています。
蘭栽培のきっかけは、依頼人から貰った珍しい蘭の試供品を枯らしてしまったことにあります。その後、屋上に部屋を作って植物室にしたのですが長い年月をかけて部屋を広げて新種を生み出すまでになりました。
※植物室にいる時間は人に会わないという規則を頑なに守るのは、実は変わり者を演じているだけだとシリーズが進む中でアーチーが語っています。著者の説明も後付けのような印象です。
外出嫌い
ウルフはほとんど外出をしません。体の大きさから様々な困難があること、自動車や列車などの動く機械が苦手なことを理由としています。しかし結構な作品で短時間の外出はしています。
レアな外出としては、「料理長が多すぎる」の10時間以上の列車移動があります。また、「腰抜け連盟」では犯人に拉致された助手のアーチーを助けに行って逆にアーチーに助け出されるというアクシデントが起きています。
「遺志あるところ」では珍しく依頼人の家に出向いていますが、そこで殺人事件に遭遇したためアーチーを残して脱走。ウルフは体は大きいが動きは素早いとアーチーが感嘆するシーンもあります。
外出しないのは依頼人に呼びつけられて主導権を握られるのを嫌うというのが本当のところだと思います。
ウルフファミリー
ウルフファミリーというと、すぐにアーチーを思い浮かべますが現地調査を行う助手は他にも大勢います。その中でもレギュラーで登場するのはアーチーを含めて4人です。
①ソール・パンザー:最も信頼されていて登場回数が多い。尾行の天才。
②フレッド・ダーキン:食事のマナーが悪くてウルフから叱られるシーンがあるが仕事上では信頼されている。
③オリー・ギャザー:ハンサムで自信家、アーチーの後釜を狙っているがウルフからはあまり信用されていない。
④助手兼運転手兼ボディーガードで女性専門要員でもあるアーチー・グッドウィン
他には、ビル・ゴアーやジョニー・キームズなどがいくつかの作品に登場しています。
アーチーはウルフの家に住み込みで働いていますが、シリーズの途中で恋人ができて週末や平日の夜間は家を空けることが増えていきます。その他にもウルフの機嫌が悪い時はサンドバッグ状態になるため家出するなど少年ぽさがぬけない一面もあります。
助手の一人ひとりに至るまでキャラがはっきりしていることもこのシリーズの特徴です。
「ウルフ最後の事件」ではウルフの助手の一人が容疑者となります。読み応えのある最終回ですが、このような形で終わるのはファンにとっては寂しいことでもあります。
その他にも、料理人のフリッツ、園芸係のシオドアがほとんどの作品に登場します。
ウルフは仕事嫌いですがファミリーを養うために気に入らない事件を引き受け、1万ドル~10万ドルもの報酬を要求する優しさと厳しさの両面を持っています。
ウルフは何歳?
ウルフとアーチーの年齢は明記されていません。
ウルフはユーゴスラビア生まれ。妻に殺されかけた事件をきっかけにアメリカに移住したと思われます。
1935年刊の「腰抜け連盟」のなかで、ウルフはニューヨークの家に20年も住んでいて、アーチーは7年前から一緒に住んでいると書かれています。
諸々の情報を合わせて考えてみると、ウルフは55歳くらい、アーチーは30代前半という感じでしょうか。
著者 レックス・スタウト
1886年生まれのスタウトは4歳で聖書を2回読み、10歳までに1000冊の本を読んだそうです。社会に出てからは30もの職業を経験し、教師時代に学校預金制度なるものを開発して大当たりしたなどという伝説級の話がいくつもあります。
※「名探偵の世紀、エラリー・クイーン、そしてライヴァルたち」の中で数々のエピソードが紹介されています。
ウルフとは正反対のやせ型の体形で、顎髭をはやし、エネルギッシュな人物。ウルフとの類似点は自分の主張を証明するためにはルール違反の非常手段に訴えることを辞さないこと。植物の栽培、書物、音楽、睡眠が好きなことなどがあげられています。
※EQ MAR.’86 NO 50 「アメリカ最大の私立探偵の生涯とその時代」より。
スタウトは小説を書くときにモデルを使ったことがないとのことですので、ウルフは自然発生的に誕生した人物と思われます。細かい設定などは書き進むなかで自然に出来上がっていったようです。
※EQ1978年7月号「ネロ・ウルフの世界」著者インタビューより
ここからは、
雑誌掲載のみで書籍化されていない長編を1冊、電子書籍も出ていて現在でも入手しやすい長編を2冊、紹介していきます。
②「腰抜け連盟」はシリーズ2作目の長編です。ウルフとアーチーの関係が初々しくミステリー要素や構成も楽しめる作品です。
③「ファーザー・ハント」は女嫌いのウルフに代わってアーチーが大活躍します。
語らぬ講演者
1946年の作品。ウルフは第二次世界大戦中は政府の仕事をしていましたので戦後の復帰第1作目となります。
最初は依頼人が存在しない状態で単なるウルフの興味から首を突っ込みますが、ウルフの巧みな策略に引っ掛かるようにして何人もの関係者が依頼料を持参する展開になります。
今回はウルフはビールをがぶ飲みしません。料理も控えめで何となく元気がありません。なかなか証拠がつかめず一旦は依頼料を返すことも考えます。その反面、アーチーは元気に動き回って大活躍します。
ウルフが興味を持ったのは、米国工業協会主催の晩餐会で講演予定だった物価安定局長のチェーニー・ブーンが殺害された事件です。
米国工業協会がどんなものなのか、物価安定局とは何をするところなのか、詳しい説明はありませんが敵対している組織ということです。
登場人物は多めです。最初の集会には13名が出席するうえに登場人物表もなく、いきなり大勢が出てくるため読者も混乱しますが、ウルフのオフィスも事実確認にはそれなりに時間がかかっています。
この集会の出席者は米国工業協会が6名、物価安定局が4名、それにクレイマー警部を含む司法関係者3名です。
その中で重要になる人物は4名しかいません。
物価安定局は、
ミス・ ガンサー(局長秘書)
アルジャ・ケイツ(調査官)
米国工業協会は、
ドン・オニール(議長←晩餐会の司会)
ウィンターホフ(実行委員会←どんな役割なのかは不明)
何度もウルフの家で関係者が集会を開くなど紛糾しますが、事件当日の各人の動きや事件前後の事情が判明してからはわりとわかりやすい事件という印象です。
結局、最後は秘書が置き忘れて行方不明になったシリンダー(口述録音機)を探すことが事件解決のポイントになります。
シリンダー(Cylinder)とは、 エジソンの蓄音機に代表される、音声を刻み込む円筒状の録音機のことです。
本書にはステノフォーンというメーカー名が出てきます。このメーカーのものは速記用録音装置と言われているようです。
ネットで調べると蓄音機そのものの形のものが出てきます。
ウルフ、アーチー、助手のソール、警察も含めて必死にシリンダーを探しますが見つかりません。
そうこうしているうちに、まさかの悲劇、ミス・ガンサー殺害事件が起きてしまいます。
シリンダーは見つからず、捜査は行き詰まり、苛立った警察がウルフに出頭するよう命じたため後半になっても迷走は続きます。クレイマーが左遷されるというシリーズ初のアクシデントまで起きます。
ちなみにウルフは普段はほとんど外出しませんが、今回のように警察に出頭するなど仕方なく外に出るときはアーチーの運転でなければ自動車には乗らない頑固さを貫き通しています。
いろいろありましたが、警視総監の鶴のひと声でウルフは釈放され家に帰ります。そしてなんと終盤になって、シリンダーがウルフのオフィスの本棚から見つかります。
シリンダーの口述内容が分かったあとは犯人逮捕に一気に進んでいきます。
そしてクレイマー警部は無事に復帰し、ウルフに蘭をプレゼントするという珍しいシーンもオマケのように書かれています。
今回は最後まで犯人の動機がはっきりしません。それでもウルフは早い段階で犯人に目星をつけていたようです。10人もの関係者が集まった場でのちょっとしたやり取りやことば遣いを見逃さず人間関係を見抜いていたウルフの功績と言っていいでしょう。いつもウルフは関係者に勝手にしゃべらせておいて小さな違和感をピックアップして事件解決に導いていきます。
アーチーも大活躍しました。集会の席決めもアーチーの仕事です。ウルフのオフィスは1作目からずっとインテリアは同じものが同じ場所に収まっています。
ウルフの机の前には赤革の一人掛けソファーがあってメインの依頼人が座ります。フカフカのソファーなので立ち上がるときには両手でソファーのアームレストを掴まなければなりません。別の作品では指紋を取って証拠固めをするために使ったこともあります。
他には黄色の革の一人掛けソファーもありますが、アーチーなりのルールで席順は決まっていきます。
このように事件解決に直接関係のない細部にも著者のこだわりが感じられこれが魅力になっています。
最後に事件当日の状況を時系列にそってまとめておきます。
3月の火曜日の午後
ワシントンから物価安定局の関係者がニューヨークに到着。
秘書のミス・ガンサーは講演に用いる品々を調達してからタクシーで晩餐会会場のウォールドーフ会館(ホテルのようです)へ向かいます。
午後7:15
チェーニー・ブーン局長がウォールドーフ会館に到着。
準備のために一人になれる部屋を希望し小部屋に案内されます。
ミス・ガンサーが会館に到着。
持参した品々を小部屋に届けるも、応接室で待つように局長に言われたため2~3分で退室。
このときシリンダー(口述用の録音機)入りの革ケースを預かります。応接室に戻ったミス・ ガンサーはカクテルを飲むために革ケースを窓際に置いたのを忘れて大舞踏室に移動します。
※応接室は100名ほどの貴賓控室。カクテルが飲めるようになっています。
午後7:30
応接室の人々は大舞踏室に移動して1400名の招待客と合流。
午後7:45
物価安定の調査員アルジャ・ケイツが講演に使うデータを届けるために小部屋に行きチェーニー・ブーンの死体を発見。
この作品の邦訳は別冊宝石 58号(昭和31年8月発行)に掲載されましたが書籍化はされていません。10年ほど前にヤフオクで購入した古い雑誌を頑張って再読しました。
昭和31年は、まだまだおらかな時代だったのでしょうか、印刷がずれていたり誤植も結構あったり、紙が破れたり、バラバラ事件がおきかけたりしています。他の本は書籍化されているのになぜこの作品は本が出ないのでしょうか。
余談ではありますが、定価は150円(地方価格153円)。
地方の書店に送る送料を加算した地方価格の記載があることも感慨深い点です。その他にも古い雑誌は広告を見るという楽しみがあります。この雑誌には98000円の東芝テレビの広告が載っていました。(昭和31年当時は大卒初任給が12000円程度だそうです)
最近はヤフオクやメルカリでもネロ・ウルフ作品は手に入りにくくなっています。私の本棚に眠っている本たちをこれからどうするか、検討中です。このまま持っていても子どもたちが喜ぶとも思えませんので、どこかのタイミングで手放すことになるでしょう。
ご興味のあるかた、コメントいただければ無料でお譲りいたします。
腰抜け連盟
1934年の作品。
腰抜け連盟とは、大学時代に下級生をいじめて障害を負わせてしまったため贖罪と被害者支援の目的で結成された団体です。
ある日、腰抜け連盟のヒバートという男がウルフを訪ねてきて、自分の命を守ってほしいと懇願します。
連盟の一人が転落死したこと、数日後に復讐を匂わせる手紙がメンバー宛に届いたことなどからヒバートはパニックになっていました。
25年前、ハーヴァード大学の学生寮では、新入生を窓から窓へ狭い出っ張りをつたわって部屋に入らせる遊び(いじめ)が慣習のようになっていました。鍵を忘れて部屋から閉め出されてしまったヒバートの代わりに標的になったのがチャピンという新入生です。チャピンはそのときの転落事故で足に一生治らない障害を負いました。
大学卒業後に小説家として成功したチャピンですが、精神的に不安定で病的な行動をとり、贖罪などという言葉を使われることに対しても反感を抱いています。
ウルフはヒバートの話を一応は丁寧に聞きます。しかしあまり興味を持てるような内容ではなかったこと、アーチーが数日間不在だったこと、などから断ってしまいます。
ところがその後、ヒバートが行方不明になり、ヒバートの姪エヴリン嬢がウルフを訪ねてきて1万ドルで調査を依頼する段になって、はじめて事件に興味を持ちます。
報酬のことを考えても引き受けるべき案件ですがウルフは適当なことを言ってエヴリン嬢を追い返してしまいます。
実は、ウルフは「腰抜け連盟」のメンバーを強引に依頼者に仕立て上げて報酬を得る計画を立てていたのです。
※1930年代の1ドル=約4円。1円は現在の5000円に相当しますので1ドルは2万円の価値があると思われます。
腰抜け連盟のメンバーを家に招いたウルフは、各々の経済状態に合わせた報酬額を勝手に決めて支払を迫りました。ほとんどのメンバーが医者や弁護士など成功者であることから無理なく払える金額です。
報酬はチャピンからの脅威を取り除いたときに支払われます。面白さのポイントは、チャピンが警察に捕まってしまったらウルフの手元に報酬が入らないということです。ウルフは何とかしてチャピンを警察から守り、自分の策略で腰抜け連盟のメンバーに安全を提供しなければならないのです。
チャピンがウルフも驚くほど頑なで心が壊れた人物であること、妻がそれ以上に変わった人物であること、チャピンは連盟メンバーの妻へ恋愛感情を抱いていること、などから全員がチャピンへ同情するどころか憎しみに傾いていくなかで、ウルフはチャピンを守ろうとします。
もう一つ、ヒバートの行方不明の真偽も確認しなければなりません。捜索劇は思いがけない展開になり思いがけないところでヒバートは見つかります。この件に関してはアーチーはすっかり騙されました。
この作品は長編2作目なのでまだファミリーも初々しいのですが、驚くべきことは1930年当時の生活様式が現代の私たちでも真似したくなるほど洗練されていることです。もちろんその生活を維持するためにウルフは高額の報酬を求めるわけですが著者のセンスが良いことは間違いありません。
今回は外出嫌いのウルフが助手のアーチーを助けに行き逆にアーチーに助け出されるという面白いエピソードもあます。
ミステリ要素も謎解きとして楽しめる内容になっています。ウルフ作品の面白さのすべてがこの作品に詰まっていると言っていいでしょう。文庫本とkindleが出ていますのでシリーズの中でも手に入りやすい本です。ぜひ興味を持たれた方は読んでみてください。
ファーザー・ハント
1968年に書かれた長編。
アーチーは恋人リリー・ローワンの助手をしているエーミーから父親探しを頼まれます。
手がかりは父親から送られてきた小切手だけ。名前もわからず写真もない状態です。
エーミーが生まれたときから父は存在せず母が苦労して大学まで行かせてくれましたが、その母も3ヶ月前にひき逃げで亡くなっているとのこと。
エーミーはリリーには内緒にしてほしい、ウルフではなくアーチーに調べてもらいたい等々注文が多いうえに預金は2000ドルしかないと言います。
アーチーはウルフに許可なしに調査はできないこと、依頼料は2000ドルでは足りないことを説明して断りました。
ところが、翌日になってエーミーは2万ドルを持ってアーチーを訪ねてきます。このお金はどうやって工面したのか、危険なお金ではないのか、ウルフの追及がはじまります。
結論から言うと、お金は父から送られてきたものでした。エーミーが生まれて二週間後に最初の小切手が送られてきて毎月1000ドルずつ送金は続きました。母がそのお金に手を付けなかったため26万ドルにもなっているのです。
とりあえず依頼料の2万ドルを受け取り、残りの24万ドル以上の管理方法の相談も含め父親捜しは動き出します。
とっかかりは小切手の振り出し人が特定できたことでした。しかしその人物はエーミーの父親ではありませんでした。さらに警察が母親のひき逃げに興味を示していることから面倒な展開になっていきます。
エーミーは母親が偽名を使っていたのではないかと疑っていました。このこともポイントになります。
アーチーは母親の勤務先や過去の人間関係を調べますが有力な手掛かりはつかめず、依頼料を返金しようかと考え始めたタイミングで糸口をつかみます。
ファミリーのキャラは既に定着しクレイマー警部との関係も良好で、アーチーは奔走しウルフはビールを飲み続け、推理が迷走はするものの安定した面白さで進んでいきます。
今回もエーミーの命が狙われる危険性がありました。しかし、以前「ギャンビット」事件で若い女性をウルフの家に泊めて大変だったので、今回は匿うのは難しいと判断。リリーにすべてを話して協力を求めます。
アーチーと恋人リリーとのやり取りが非常に面白い作品です。エーミーと急に親密になったアーチーをリリーが疑うシーンもありますが、さすがに事件のことを知ったあとは全面協力へと変化していきます。
シリーズを通してまったくブレることなくウルフは偏屈者で、アーチーはどんどんと女性への優しさとウルフに対する反抗心を募らせていきます。
子どものように反抗しながらもウルフを尊敬し、時には命がけでウルフをまもるアーチー。ウルフのほうでもアーチーがいなければ仕事はまったくはかどらず危険も回避できないという依存関係。シリーズ後半になっても2人の面白い関係性は健在です。
アーチーは何となくエラリー・クイーンと似たところがあると私は思っています。女性読者はアーチーファンが多いようですし、たしかにアーチーは洗練されています。でも私は偏屈者を演じるウルフも大好きです。
※この作品は雑誌(EQ'82.1-5)に掲載され、2021年にグーテンベルク21から電子書籍が出ています。紙の本は出ていません。
今回は3作品を取り上げました。
まだ未読作品が結構あるのでこれからもウルフ探しの旅は続きます。


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