追熟読書会: 生命を守るしくみ 【オートファジー】

生命を守るしくみ 【オートファジー】




吉森 保(著)
大阪大学 特任教授。2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典氏と共にオートファジーの研究に携わり、この分野の第一人者としてオートファジー関連の研究を続けている。
※詳しいプロフィールを知りたい方はこちらから→「吉森研究室」



本書はオートファジーを解説する本です。

吉森先生と大隅先生の研究にまつわるご苦労や素晴らしいチームワーク、子弟愛などを盛り込んで物語のように進んでいきます。

ノーベル賞授賞式や記念講演の話、オートファジーとは何かという基本概念から、疾病との関連性、誰にも相手にされなかった研究が急速に注目を集めていく過程などが書かれています。専門的な内容は少々難しくて読みにくい面もありますが、研究室での数々のエピソードは誰もが楽しく読むことが出来る構成になっています。

図解が非常に多いのも特徴です。知らない単語がたくさん出てくるため迷子になりやすいという側面もあります。そこで私は基本的な単語をピックアップしながら、混乱しないように概要をメモしながら読みました。

今回は自分の読書のためにまとめた内容をこのブログにUPするという形になります。オートファジーを理解するための幹の部分だけ抜き出していますので、研究室での会話や雰囲気、実験の詳細に関してはほとんど触れていません。興味のある方は本書を手に取って読んでいただくしかないと思います。

💬 は解読が難しかった点や感想、印象的だったエピソードなどをピックアップして書いています。


  第1章 細胞の中の世界  


《オートファジー》
ギリシャ語のauto (自己)と  phagi (食べる)を合成した造語。

1950年、ベルギーのクリスチャン・ド・デユーブが細胞は自己の成分を自分で食べて分解しているのではないかと考えて命名した。日本語では「自食作用」と訳されるが近年はオートファジーが浸透してきているため辞職と混同されやすい自食はほとんど使われていない。

オートファジーは細胞の中で起きている現象なのでまず細胞とその中の構造について解説する。


《細胞は生命の基本単位》
①細胞は1個で生きていける
②細胞は分裂して増える
③物質の合成や分解など生存に不可欠な様々な化学反応が、細胞の中で行われている
④細胞1個の中に生命の1個体、ヒトであればヒト1人を作るのに必要な遺伝情報が全て入っている

以上の理由から細胞は生命の基本単位と考えられている。


《代謝》
③の生体内で起きる化学反応を代謝という。


《ゲノム》
④の遺伝子情報セットのことをゲノムと呼ぶ。細胞1個から生物1個体を作ることは技術的には可能で、既に哺乳類でも実証されている。


《オルガネラ》
細胞を電子顕微鏡で見ると膜でできた袋がたくさん詰まっている。それらの袋をオルガネラ、日本語では細胞小器官と呼ぶ。

細胞も膜でできた袋なので、袋の中に袋がある。

オルガネラにはいろいろな種類があり、それぞれが人間の社会における工場や発電所、病院、ゴミ処理場などの役割を果たしている。


《タンパク質》
タンパク質は全て細胞の中で作られる。ヒトの場合、数万種類のタンパク質があってそれぞれ違う役割を果たしている。



細胞の中ではとても複雑な化学反応が起きていてそれが生命活動を支えている。オルガネラが作られたのは、簡単に言うと化学反応を効率よく進めるためである。

細胞の中ではタンパク質の合成と分解のように逆方向の反応が同時に行われることもある。膜でできた袋(オルガネラ)があれば、逆方向の反応の場を分けることもできる。


《メンブレントラフィック》
オルガネラは独立して働いているが、互いに物質のやり取りも行っている。

オルガネラ間の物質輸送システムをメンブレントラフィックという。メンブレンは膜、トラフィックは交通という意味である。

《小胞輸送》
 いくつかある輸送システムの中の基本形。
①送り手であるオルガネラの膜の一部が膨らむように突出し、輸送する物質を含んだ状態で、根元がくびれちぎり取られて小さな袋(輸送小胞)になる。
②受け手であるオルガネラに①が運ばれ、膜表面の分子を介して相手を認識して、正しい相手であれば結合する。
③輸送小胞①の膜と受け手の膜が融合し、運んできた物質が受け手側の内部に放出され輸送が完了する。


メンブレントラフィックで重要な働きをしている生体膜は、非常に可塑性に優れ、自由自在に形を変えることができる。

生体膜にはさまざまなタンパク質がはめ込まれている。それらのタンパク質は、①細胞やオルガネラなどが相手を認識して結合する、②膜を貫通して物質を輸送する、③化学反応を起こすなど、さまざまな働きをしている。


オートファジーは、メンブレントラフィックの一部である。

メンブレントラフィックの主要な経路は、分泌経路、エンドサイトーシス経路、生合成経路、そしてオートファジー経路の4つである。

《分泌経路》
ホルモンや抗体、分解酵素といったさまざまなタンパク質や神経伝達物質などが、この分泌経路によって細胞の中から外へ運ばれている。

《エンドサイトーシス経路》
細胞の外から中へ栄養、情報分子、病原体などを細胞質に取り込む。細胞膜の一部が内側に突出し、輸送するものが入った小さな袋(輸送小胞)がちぎり取られエンドソームと結合して運んできたものを渡す。外から運ばれてきた物質の多くは最終的にリソソームに送られる。 
※細胞質とは細胞の内部で「細胞核」以外のすべての領域のこと 
 
《エンドソーム》
物質の選別が行われ行き先が決められる。オルガネラの一種。
 
 《リソソーム》
エンドサイトーシス経路の終着点。さまざまな分解酵素を含んでいて物質の分解を担っている。タンパク質はリソソームで分解されてアミノ酸になる。そのアミノ酸はエネルギー源として使われたり、新しく作られるタンパク質の材料になったりする。
 
《生合成経路》
ゴルジ体(物流センターの役割を担うオルガネラ)とエンドソームをつなぐ。
 
リソソームで働くタンパク質を運ぶのが主な役割。

《オートファジー経路》
細胞の中にある物質を隔離膜で包んでオートファゴソーム(新しいオルガネラ)を作り、分解を担うリソソームに運ぶ経路。

《オートファゴソーム》
まず「隔離膜」と呼ばれる構造が作られる。
隔離膜は生体膜でできた袋がつぶれたようなもので、最初は丸い座布団のような形をしている。
伸びながら曲がって、皿、丼、壺と形を変えていく。
物質を包んで、壺の口を閉じて球形になり新しいオルガネラ(オートファゴソーム)を作る。

※オートファゴソームは、二重の生体膜で包まれた特殊なオルガネラである。 

 
オートファゴソームは微小管というタンパク質でできたレールの上を運ばれて
リソソームに出会うと融合し、
リソソームの酵素でオートファゴソームが分解され再利用される。
タンパク質はアミノ酸に分解され、そのアミノ酸は再利用されるというリサイクルシステムになっている。



ここまでの内容を読みながらまとめたのが下の図です。かなり大雑把に書いてありますので参考になるかどうかわかりませんが一応ここに載せておきます。
吉森研究室にもっと詳しい図解と解説があります。



💬 第1章は1995年、ドイツ留学から帰国した吉森先生が大隅先生と出会うシーンから始まり、オートファジーの研究へと進む過程や自己紹介へと続きます。
 
次に細胞とは何かという基本的なことに入っていくのですが、私は高校の生物で習ったであろう簡単なことも忘れてしまっていたため、ネットで調べながら読み進めました。

オートファジーの説明に入ると引き込まれていきましたが、隔離膜について「つぶれた」という表現があったため既存のオルガネラが破れたものと勘違いをしてしまいました。何かおかしいと気づいて何度か読み直して、ネットで調べてみて、隔離膜は突如現れる物質でまだ解明されていないということがわかりました。 

章の終わりにコラムがあります。ラバーダック(アヒルの形をした玩具)の話です。吉森先生は最初は学会でオートファジーの発表をしてもなかなか興味を持ってもらえず、名前も覚えてもらえなかったそうです。
 
日本人の名前は外国人にとっては発音も難しい。そこで目印として講演のスライドの隅にラバーダックの写真を入れていたところ、「アヒルのやつだ」と覚えてもらえたというエピソードです。今では誰も彼もがアヒルを買ってきてくれてアヒルで研究室が溢れているそうです。



  第2章 オートファジーの発見、暗黒時代、そして夜明け  

オートファジーが発見されたのは1950年代である。オートファジーの名付け親であるクリスチャン・ド・デユーブは1974年にオルガネラの構造と機能に関する発見によりノーベル生理学・医学賞を受賞している。

オルガネラの解析が進む中でオートファゴソームだけが謎のまま取り残され、オートファジー研究の暗黒時代は長く続いた。

オートファジーに関する論文はほとんど出ず、発見から30年近い年月を経てようやく夜明けが訪れる。そのきっかけを作ったのが大隅先生である。

※この後は、大隅先生の大学時代、留学、帰国後の研究の様子などを語りながら進みます。大隅先生は留学の最後の一年で酵母を用いたDNA複製と細胞増殖制御の研究へと思い切ってテーマを変えました。そして帰国後、酵母研究からノーベル賞につながる論文が生まれ、14種のオートファジー必須遺伝子(ATG)を発見しました。

《酵母》
酵母は、単細胞生物で、細胞の表面から芽のようなものが出てそれが大きくなり、分裂して増殖する出芽酵母と、細胞の中央がくびれて分裂して増殖する分裂酵母がある。

実験に使われたのは出芽酵母である。

酵母は、約2時間で1個の細胞が2個になる。哺乳類の細胞の場合、1回の分裂に24時間ほどかかる。増殖が早いと効率よく実験を進めることができるので、酵母は使い勝手が良い。

ヒトなど哺乳類の細胞と基本的な内部構造は同じで共通する機能も多いことから、酵母はモデル生物として深く研究され、さまざまな実験に使われている。

《液胞》
液胞は植物細胞や酵母で発達しているオルガネラで、中にいろいろなものをため込み、また分解酵素を含んでいる。



オートファジー研究はこのあと、酵母から哺乳類研究へと進んでいく。

💬 この章はオートファジーが発見された1950年代の話から始まり、大隅先生が酵母で大発見をされた話へとつながっていきます。大隅先生のプロフィール的な話を挟みながら、実験方法のかなり細かい部分まで書かれているため少々難解な内容になっています。メンデルが行ったエンドウの交配実験の話まで出てきます。本書はヒトのオートファジーを理解する目的で読んでいますので、一つひとつの実験については概要を軽く把握する程度で十分ではないかと感じました。

 


  第3章 哺乳類オートファジーの大海原へ  

《ホモログ》
ホモログとは異なる生物種が持っている遺伝子で塩基配列が類似しているもののこと。同一の祖先種に由来する遺伝子が進化の過程で変化した可能性が高い。

タンパク質についてもアミノ酸配列が類似しているものをホモログと呼ぶ。

酵母のオートファジー必須遺伝子タンパク質のホモログが哺乳類で見つかれば、哺乳類もオートファジーに関連している可能性が高い。

《LC3》
ラットの脳から発見された新しいタンパク質MAP1-LC3は、酵母のオートファジーに必須なAtg8の哺乳類ホモログであることが明らかになった。

LC3によって様々な解析が可能になり、オートファジー研究を大きく前進させる原動力となった。

💬この章のLC3の解説部分では、タンパク質とGFP(緑色蛍光タンパク質)をつなげて光らせて蛍光顕微鏡で観察する方法が出てきます。難しい内容ですが、この章の詳細が完全に理解できなくてもこの後の読書に大きく問題は出てこないと思います。最後にコラムとしてノーベル賞授賞式の様子が書かれています。



  第4章 三つの主要機能  

オートファジーの研究は急速に進み、オートファジーが生体にとって極めて重要で多岐にわたる機能を持つことがわかってきた。

現在までわかっている主要な機能は、栄養源の確保 ・代謝回転・有害物の隔離除去の3つである。

栄養源の確保
自己を食べることで栄養を得るという役割(栄養源の確保)は、酵母からヒトまで全ての真核生物に共通したオートファジーの最も基本的な機能である。

オートファジーは飢餓状態で細胞の成分を包み込んだオートファゴソームが急にたくさん出現して活発になる。

多細胞生物の場合、脂肪細胞のように栄養を貯蔵する働きを持つ細胞もあって多少の飢餓は耐えられるがそれでもオートファジーによる栄養源の確保は大事である。

代謝回転
飢餓状態ではない普通の状態では、細胞の中にあるタンパク質の1~2%をオートファジーで分解しアミノ酸にし、出来たアミノ酸を材料に新しいタンパク質を作っている。こうした細胞成分の新陳代謝を専門的な言葉で、代謝回転と呼んでいる。

食物から摂取するタンパク質は胃腸で分解されアミノ酸になり、体内に吸収される。そのアミノ酸はエネルギー源として使われ尿素として排出される。タンパク質の材料になるものもあるがほんの一部である。食物から摂取したタンパク質を分解したアミノ酸だけでは到底材料が足りない。

 細胞の中にあるものを分解して同じものを作ることで、何日かで細胞の中身が全て入れ替わり、新しい状態が保たれる。

オートファジーが起きず、中身の入れ替えができないと、細胞の機能に不具合が出て病気になってしまう。

オートファジーが担う新陳代謝とは細胞内の成分の入れ替えである。細胞の入れ替わりに加えて細胞の成分も入れ替えられている。それが細胞の恒常性維持、ひいては健康維持に必須であることがオートファジーの研究で明らかになってきた。

この細胞内部の代謝回転は脳の神経細胞や心臓の心筋細胞のように一生の間にほとんど入れ替わらない細胞では特に重要である。

《有害物の隔離除去》
オートファジーは自己成分を分解するだけではなく、細胞内に入ってきた細菌などの有害物を隔離して除去する機能も持っている。

隔離除去の対象となる細菌はさまざまであり、さらには細菌にとどまらず、ウイルスなど広範な病原体が駆除されることが明らかになっている。

オートファジーを利用して増殖する病原体や、コロナウイルスのようにオートファジーを妨害するタンパク質を持っているウイルスも存在する。



オートファジーは生活習慣病を含む数多くの疾患の発症を抑制していることがわかったことで、多くの研究者が興味を持ち、オートファジー分野が急激に大きくなったのである。


💬 オートファジーによって抑制される疾病が具体的に書かれています。ダイエットの視点で語られることの多いオートファジーですが発がん抑制の機能もあるそうです。まだこれから新たな機能が見つかる可能性があるとのこと。難病といわれている疾病も治る可能性があるとしたら夢のある研究だと素人の私でも感じます。

研究者の世界というのはわからないことだらけですが、本書を読む限りでは非常に細分化されて専門性が高く、少しでも違う研究をしている研究者とは接点がほとんどないようです。この章では、吉森先生の奥様の伝手で歯周病の研究者と共同研究が始まったというエピソードが紹介されています。

コラムには漫画「トリコ」が出てきます。漫画を通してオートファジーを知る人が意外と多いため科学雑誌に論文を掲載するより週刊ジャンプにに載せたほうがいいのかもしれないという少し柔らかめの内容が脳の休憩にもなりホッとします。



  第5章 選択的オートファジー  


《ゼノファジー》
オートファジーによって細菌など外から細胞内に入ってきたものを分解する隔離除去のこと。自己の成分ではなく、外から入ってきたものを食べることから、ゼノ(異物)ファジーと呼ばれている。

《選択的オートファジー》
外から取り込まれたものは、細胞膜の袋(エンドソーム)の中に入っている。オートファジーによって分解される物質は多岐にわたるが、すべてのエンドソームをオートファジーが分解してしまうとエンドサイトーシス経路が機能不全になるため、細菌が入ったエンドソームだけを選んで分解していると考えられる。

エンドソームの中の細菌はリソソームに運ばれると酵素で分解されてしまう。そのため細菌は分解されないように毒素で膜に穴を開けて脱出する。脱出した細菌は細胞質で増殖し病気を引き起こす。
 ※第4章 有害物の隔離除去の項でA群連鎖球菌を用いた実験の詳しい説明あり

穴の開いたエンドソームを選んで分解していることが、いくつかの実験によりわかっている。

《リソファジー》
穴の開いたエンドソームという観点から考えると、他のオルガネラも穴が開くと除去されている可能性がある。

外から運ばれてくるものの中には、シリカやコレステロール結晶、尿酸結晶など刺激性の分子も含まれていることがあり、リソソームは穴が開くこともある。

穴が開いてリソソームの中にある分解酵素が外に出ると危険である。穴が開いたリソソームもオートファゴソームが包み込み正常なリソソームと結合する。

このように損傷して穴の開いたリソソームを除去するシステムをリソファジーと名付けた。

💬 この章はコラムも面白いエピソードもなく淡々と進んでいき、かなりややこしい説明になっています。どのようにして細菌が入ったエンドソームを見分けているのかという話なのですが、おそらく穴の開いたエンドソームであれば細菌か否かにかかわらず分解しているのではないかという結論です。

 


  第6章 疾患に対抗するオートファジー  

オートファジーにより細胞の中身の作り替えがうまくいかないと、細胞機能に支障が出て細胞死や疾患を引き起こしてしまう。

しかし細胞には寿命があり古い細胞は死に、新しい細胞に入れ替わっているため作り替えがうまくいかなくても大きな問題にならないことも多い。

一方で、脳の神経細胞や心臓の心筋細胞は、ほとんど入れ変わらず生まれてからずっと使い続けなければいけない。

オートファジーによる分解が滞ると、古いものや壊れたものがどんどん溜まっていき、やがて細胞は死んでしまう。

《神経変性疾患》
神経細胞が死んで、脳機能が低下してしまう疾患がいくつもあり、まとめて神経変性疾患と呼ばれている。

 細胞内のタンパク質蓄積が共通する特徴として見られ、オートファジーによる分解が滞っていることが推測される。

《凝集タンパク質》
凝集して塊を作りやすいタンパク質がある。このタンパク質は細胞毒性を持つため、それが蓄積すると細胞の機能が低下して疾患の原因となる。

オートファジーは、凝集タンパク質を選んで分解することで、それが引き起こす疾患の防御機構として働いている。
→パンチントン病、アルツハイマー病の発症に関わる凝集タンパク質を分解して、発症を抑制してくれている可能性が高い。

オートファジーは、損傷したミトコンドリアを除去することでも発症を防いでいる。
→パーキンソン病

《責任遺伝子》
変異が起きると特定の疾患を引き起こす遺伝子をその疾患の「責任遺伝子」、あるいは「原因遺伝子」と呼ぶ。

疾患を発症させる遺伝子があるのではなく、誰でも持っている遺伝子に変異が起きると発症する。

遺伝子疾患とは、遺伝子の変異が原因で発症する疾患の総称である。遺伝という言葉のせいか、親から子へ遺伝すると思われがちだが、遺伝しないものもある。

《損傷リソソーム》
オートファジーが起きないと、損傷したリソソームを除去できなくなり、症状が悪化することが明らかになっている。

《腎疾患》
血液に溶けている尿酸は腎臓で取り除かれて尿と一緒に排出されるが、結晶化した尿酸は腎臓に蓄積していく。

尿酸結晶は、エンドサイトーシスによって腎臓の細胞の中に取り込まれ、リソソームに運ばれる。尿酸結晶はトゲトゲしているためリソソームを傷つけ、中にあった分解酵素が細胞質に広がって細胞の機能が低下し腎障害が生じる。


《生活習慣病》
2型糖尿病を起こす膵島(すいとう)アミロイドポリペプチドや、動脈硬化を起こすコレステロール結晶もリソソームを傷つけることが知られている。

オートファジーは、他にもさまざまな生活習慣病と関わっていることがわかってきている。
 
💬 この章はさまざまな疾病について書かれています。脳の神経細胞や心臓の心筋細胞は、ほとんど入れ変わらないため特にオートファジーが重要になるというのは衝撃的です。アルツハイマーの原因がタンパク質の蓄積であるという話は最近よく聞くことですが具体的な理論は初めて知りました。オートファジーという言葉がダイエットという視点から独り歩きしてしまっていることは残念です。

 

  第7章 オートファジーを止めるルビコン  

《脂肪肝》
脂肪肝は肝臓の細胞に脂肪が蓄積して肝障害を起こす。生活習慣病の一つである。

大量の飲酒が原因のアルコール性と飲酒が原因ではない非アルコール性があり、非アルコール性脂肪肝の患者の方が多い。

非アルコール性脂肪肝は、過食、特に脂肪分が多い高エネルギーの食事を摂りすぎると摂取エネルギーが消費エネルギーを上回り肝臓の細胞に脂肪がたまって起きる。

脂肪肝では、オートファジー機能が低下する。

《ルビコン》
多くのオートファジー関連タンパク質はオートファジーに対して促進的に働くが、ルビコンは、オートファゴソームとリソソームの融合を抑制するタンパク質である。
 
脂肪肝の研究から、高脂肪食の過剰摂取によってルビコンが肝臓で増加しオートファジーの機能が低下することが明らかになっている。
 
脂肪肝は遺伝子疾患ではない。この研究結果は遺伝子変異がなくても食生活という環境要因によってオートファジーが低下して疾患が引き起こされることを示している。

 

生活習慣病の中には脂肪肝のほかにもオートファジー機能の低下が確認されている疾患がある 。脂肪肝と同様に高脂肪食の過剰摂取などの食生活が原因になっているのかもしれない。

ルビコンをターゲットにすることで、オートファジーが関わる疾患の予防や治療が可能になるのではないかと期待されている。

特定のタンパク質が作られないようにする方法は2つある。
・ノックアウト~遺伝子を破壊してしまう方法
・ノックダウン~遺伝子からタンパク質を作らないようにする方法

ルビコンの合成を阻害し機能低下を防ぐことができれば、治療薬を作ることができると考え研究を進めているがなかなか難しいのも事実である。そこで、ルビコンと結合してその働きを阻害する低分子化合物の開発も進めている。

ルビコンの働きを阻害する薬ができれば、脂肪肝だけでなく、オートファジーの機能低下によって発症する様々な疾患の治療薬になる可能性がある。

💬 ルビコンは驚くべき働きをするタンパク質ですが、オートファジーが暴走すると危険なのでブレーキ役のタンパク質があるのは当然という考え方もあるそうです。 暴走を防ぐ機能まであるとは人体とは完璧な構造になっているのだと感心しました。
 
オートファジーの働きと疾病との関連がわかれば本書を読む目的が達成されたことになりますので1章と6章、7章は絶対におさえておきたいポイントだと思います。

前半の章のように研究室の様子や面白いエピソードは出てきません。実験の具体的な方法など難しい内容も多くて少々退屈するのも事実ですがルビコンが出てきて目が覚めた感じがしました。 コラムがないのが残念です。

 
 
  第8章 健康寿命を延ばす  

健康寿命
寝たきりや認知症など健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を健康寿命と呼んでいる。

日本の平均寿命と健康寿命との差は、男性で約9年、女性で約12年。この期間は日常生活に制限のある不健康な状態で過ごしていることになる。

ただ長生きするのではなく健康寿命を延ばす必要がある。老化のメカニズムを解明し、老化に伴って発症する疾患の予防や治療に役立てようとする研究が盛んに行われている。

寿命延長経路
こうすると寿命が延びるということがさまざまな実験から知られているが、それらは専門用語で寿命延長経路と呼ばれ、主なものが5つある。

カロリー制限
1食のカロリー、あるいは食事回数を減らすと寿命が延びる。ただし生命の維持に必要なカロリーは摂取しなければならない。

②インスリンシグナルの抑制
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンである。食後に血糖値が上昇すると、それに反応して膵臓からインスリンが分泌される。

インスリンが細胞の表面にある受容体に結合し、その情報が細胞内に伝えられると、細胞は血液中のグルコースを取り込み、エネルギー源として利用する。

このインスリンシグナルは糖の代謝を調整し、血糖値を一定に保つ働きを持つ重要なものである。

しかし重要だからインスリンシグナルは多い方が良いかというとそうではなく、ある程度抑制した方が寿命が延びる。

③TORシグナルの抑制
TORはリン酸化酵素で、アミノ酸やグルコースなどの栄養源が増えると活性化され標的分子にリン酸を付加することを通して、タンパク質の構成や細胞の増殖を制御している。

TORシグナルも抑制すると寿命が延びる。

④生殖細胞の除去
生殖と寿命は逆相関の関係にあり、生殖を盛んにすると寿命は短くなる。生物としては次の世代を作ってしまえば不要ということなのだろう。次世代を作らなければ長生きする

⑤ミトコンドリアの機能の抑制
ミトコンドリアは細胞のエネルギーを作っているオルガネラである。当然生きていく上で欠かせないが、ミトコンドリアのエネルギー産生をある程度抑えた方が寿命が延びる。


これらの寿命延長経路は相互に関連性がなく独立している。

①のカロリー制限は、軽い飢餓状態に相当する。飢餓状態になると細胞はフォートファジーによって自己の成分を分解して栄養源を確保する。カロリー制限時によってオートファジーが活性化される。

②から⑤に関しても、オートファジーが活性化することが明らかになっている。


《ルビコンと老化現象》
年をとるとオートファジーが低下するが、ルビコンをなくすと、加齢に伴うオートファジーの低下が起きず、寿命が延長されることがわかっている。またさまざま実験結果は、ルビコンがなくなると老化現象が軽減することを示している。

高齢者に発症しやすい傾向がある神経変性疾患についても、ルビコンをなくすとその症状を抑制できることが明らかになっている。

《寿命延長の鍵》
寿命延長経路の5つには共通点があり、全てでオートファジーが活性化されている。一方、何もしなければ、加齢に伴ってルビコンが増え、その結果オートファジーは低下する。

つまり、今日の鍵を握っているのはルビコンということになる。

遺伝子工学の技術を使うと、特定のタンパク質を全身で働かなくすることはもちろん、任意の臓器だけで働かなくすることもできる。最も治療が伸びるのは脳でルビコンをなくした場合だった。

脳が寿命の決定に関わっていると考えている研究者は多いが、そのメカニズムはわかっていない。

《オートファジーを促進する食品成分》
普段から、オートファジーが低下しないようにすることは大事だが、病気になる前からオートファジーを活性化する医薬品を長期間飲み続けるというのは副作用の問題もあり現実的ではない。

天然の食品成分であれば、医薬品ほど効果は大きくないかもしれないが、安心して長期間摂取できる。

《スペルミジン》
オートファジーを活性化する天然の食品成分のうち代表的なものがスペルミジンである。

特に多く含まれるのは、豆類や発酵食品である。味噌や醤油、チーズにも多く含まれている。

イタリアの町で800人を対象に行われた食事調査によれば、スペルミジンの摂取量が多いほど、心不全などの心血管疾患になりにくい傾向があるという。

免疫細胞のB細胞は加齢に伴って抗体を作りにくくなり、オートファジーの低下が原因だと考えられている。老化した人の免疫細胞にスペルミジンを投与したら、抗体の産生量が増加したという報告もある。免疫機能が高まれば、病気にかかりにくくなる。

老化して、オートファジーが低下している免疫細胞でもオートファジーを活性化でき、抗体産生能力を回復できたということは、老化は不可逆的な現象ではない可能性を示している。

💬 本書では、食事の回数についての言及はありません。1食のカロリー制限あるいは食事回数を減らすという表現になっています。Youtubeで吉森先生の名前で検索するとオートファジー関連の動画がいくつか出てきます。動画の中では、1日3食、腹八分目が推奨だが2食にすることで食べる総量が減るならば3食に拘らなくてよいというような表現でした。食事回数を減らして空腹からドカ食いしてしまうのなら逆効果だとい注意喚起だと思います。

本書を読んでみると巷にあふれているオートファジーの情報とはかなり違っていました。

読書で正しい情報に触れることは大事です。オートファジーに興味を持ったなら最初に読む本として本書は最適だと感じました。


 






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