追熟読書会: 「あなたの中のなにが、そう思わせるのか?」まず、ちゃんと聴く

「あなたの中のなにが、そう思わせるのか?」まず、ちゃんと聴く


 

まず、ちゃんと聴く。

コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比



エール株式会社 代表取締役 櫻井 将 (著)


最初はちょっと変わったタイトルだなと思いましたが、読んでみると

「まず」にも

「ちゃんと」にも

「聴く」にも深い意味があることがわかりました。


「まず」

「ずっと」聴くのではなく「まず」聴くことなのです。聴くというのは選択し得る表現方法の一つであり手段。聴くだけでは解決しないことがあります。これは多くの人が訴えていることです。

話が複雑だったり、未知のテーマだったり、葛藤や対立があったり、こだわりや想いが強い内容だったりするときには、自分の経験や知識、考えや意見を伝えるだけではうまくいかないことが多いのです。そういうときこそ「まず」聴くが大事になります。

そして、うまく聴くのではなく「ちゃんと聴く」ことです。


「ちゃんと」

黙って我慢して聴くという意味ではなく、相手の言動の背景には肯定的意図があると信じている状態で聴くという「あり方」のことです。


「聴く」

聴くとは、自分の解釈を入れることなく意識的に耳を傾ける行為(withoutジャッジメント)のことです。

一般的には、意識せずとも耳に入ってくるときには「聞く」、意識的に耳を傾けたときには「聴く」とすることが多いのですが、さらに自分の解釈が入るか入らないかによって、2つに分けることができます。

●Withジャッジメント

「そうそう、私もそう思う」とういう反応のことで、これは自分の解釈が入っています。

●Withoutジャッジメント

「そう思ってるんだね、そう思った背景をもう少し教えて」という反応は、自分の解釈を入れずに耳を傾けています。こういう聴き方の最大のメリットは、仮に自分とは異なる意見、考え方であっても共感的に関われることです。


まだまだ本書の導入部分といってもいい位置にいますが深い内容になっています。聞くということが必ずしも悪いわけではなく、直接的なアドバイスも必要なことがあります。非言語スキルや言語スキルといわれているコミュニケーション術のことや体調を整えることも重要な要素であると説明が続きます。少々回りくどい感じも受けますがわかりやすい内容でした。
最近はコミュニケーションの勉強をしている人が多いため、お互いに技を使い合うが故のコミュニケーションの溝のようなものを感じていました。
著者の言う「あり方」 は、そんな悲しい溝を埋めるためにも重要なのだと思います。それでは、聴くだけでは解決しないことをどうやって乗りこえていけばいいのでしょうか。そこで「伝える」が出てきます。

 

「聴くと伝えるの両立」

コーチングやカウンセリングの場面では相談者は聴いてもらいに来ているので、聴くことを深めればいい。しかし実際のビジネスの現場では聴くことはコミュニケーションの1つの表現手段でしかないのです。

本書では聴くと伝えるの両立という視点で、発生頻度は低いが貢献度が高い仕事・振る舞いに注目して1つの提案をします。

いつもミスばっかりだね。というような言葉はミスの発生頻度を高める可能性があります。伝え方を工夫してみましょう。

それでもミスが減らないならば、地道な努力や誠実さを褒めてみましょう。それでもモチベーションは上がってもミスは減らないとなると・・・

さてどうするか。ということになります。

そこで試してもらいたいのが、頻度は低いが貢献度の高いものに対して感謝を伝えるというフィードバックの方法です。ミスが多い人も必ず例外的にうまくいっているときがあります。ここを見つけて褒めたり感謝したりするのです。

人間は指摘され、そのことを意識するとその事象の発生頻度が高まるという習性をもっています。貢献の瞬間を見逃さないこと、「偶然だ」などと言わずにポジティブフィードバックをすることです。これは驚くほど効果があるのです。

日常のコミュニケーションはやはり聴くことと伝えることの両立ではないかと私も感じています。近年は聴くことの重要性が説かれ多くの傾聴の本が売られています。しかしそのほとんどが聴くことを生業にした人が書いた本なのです。傾聴といわれるほど徹底して聴くことは専門職の領域です。普通の生活のなかでそこまで他人の話を聴く必要はないでしょう。とにかくこの伝えることとのバランスは非常に難しい課題なのです。

頻度は低いが貢献度の高いものを褒めるという行為は、ビジネスの場面では今までにない切り口なのかもしれません。 しかし、家庭で子どもとの関わりの中では意外と自然にやっているようにも思いました…が、これも体調やそのときの状況に左右されやすく見逃してしまうシーンが多いというのが反省点です。意識的にかかわることが必要ということなのでしょう。

本書には実際にどのような場面でどういうフィードバックをするのが最適かという事例が多く書かれています。 図解が多いというのも本書の印象です。詳細は本書を読んでみていただきたいということになりますが、大きなポイントとして「肯定的意図」について取り上げてみたいと思います。


「肯定的意図」 

自分とは異なる意見や考え方を我慢することなく共感的に聞くことができるのだろうか。この疑問に対するヒントが肯定的意図という信念にあります。

信念とは、これはこういうものであるという思い込みのことです。 この思い込みは過去の体験から作られ、無意識に作用します。

すべての振る舞いは肯定的な目的を持っている(または一度は持っていた)という前提で考えていくと、

攻撃的な行動の背景には保護があり、恐怖の背景には安全を求める思いがあり、憎悪の背景には人に行動を起こさせる動機付けがある。

非建設的、非生産的、反社会的と思える言動の背景にもその人なりの肯定的意図がある。

しかし、肯定的意図を考えるということはその行為を正当化するのではありません。意図と振る舞いは切り離して考えましょう。意図についてはWithoutジャッジメントで、行為に関してはWithジャッジメントで関わるのです。

では、どうやってそのような関わりを深めていくのでしょうか。

自分の肯定的意図を自分自身でちゃんと聴けるようになると、相手の中にも肯定的意図があると信じて関われるようになります。

肯定的意図は序盤の「ちゃんと」の解説で出てきた言葉です。すべての言動の背景には肯定的意図があると信じて目の前の人と関わる。その「あり方」が「ちゃんと聴く」ということになるのです。

肯定的意図についてはNLPの考え方をもとに書かれているようです。自分の過去の行いを全く後悔しない人などいないでしょう。しかしその行為を選択したときは(私は)最善の選択をしていたのだと思っています。そう思っていなければ行動できないでしょうし、割と考えてから行動するタイプだなと自分で思っているからです。しかし問題は今、目の前で起きている他人の問題行動に肯定的意図を見いだせるかどうかではないでしょうか。結構これは難しいことです。この内容だけを深堀した本も読んでみたいですね。

 

前半の第1章、第2章は抽象的な理論編ですが、後半は具体的な手法が様々な観点から書かれています。フィードバックマトリクス、両立のためのヒント、使い分けの仕方、観察力、3つのゾーン、3要素、4つのステージなど図解による解説が続きます。

あまりに図が多いので自分の興味のある点に集中して読まないと迷子になりそうです。


※具体的な手法に関しては一部を抜粋することは難しく誤解も生じやすいため、今ここでは書きません。興味のあるかたは本書を読んでいただきたい。


最後に興味深かった2つの話をピックアップして終わりにしたいと思います。

 

 「なぜ」ではなく「なに」

相手の話をちゃんと聞こうとすると「なぜ」と質問しがちですが、なぜそう思うの?と言われると責められているような感じがすることがあります。聴く側は責める気がなくても、受け取る側は正しい答えを言わなければと思ってしまいやすいのです。

なぜそう思うの?の主語は「あなた」であり、相手に対する評価的、分析的な思考が生まれやすくなります。

この一文を「あなたの中のなにが、そう思わせるのか?」に変えてみると、相手の関心事に関心の矢印が向かっていきます。

人をジャッジするのではなく相手の関心事に関心を向けるのは簡単ではないでしょう。それでも、言葉遣いを変えることはすぐ実行できることなので意識していこうと思います。

アガサ・クリスティーの小説の登場人物がこういう文脈をよく使っているということを読み進みながら思い出しました。非常に興味深いことです。推理を組み立てていく過程では注意深く事実を観察し、あの人は悪人だ、善人だという前に「いったい何があの人にこんなことをさせるのかしら」と考えるわけです。これからはミステリを読むときも少し視点が変わりそうです。


「通用しなくなった愛のムチ」

なぜ昔は厳しく叱っても問題とならなかったのか。

相手の話が聴けていればいるほど、厳しく伝えても問題が起きないのではないか。

かつては社会や会社の仕組み、制度が聴くを担っていたからではないか。

以前は会社や上司に従っていればキャリアが約束されていたからではないか。

このようにいくつかの仮説がでてきます。

著者の分析は間違っていないと思います。しかし、昔だって多くの人が病んでいたのではないでしょうか。表に出なかっただけ・・・今のように求職したり転職したりできなかったのでギリギリまで我慢して何とか出社はしていた。そしてそれでも解雇されることはなかったのです。

いつの時代にも世代間ギャップは存在したのでしょう。それは社会や会社の制度よりも、学校教育が変わったからだと私は感じています。

厳しいことを言えない風潮は指導者としては大変なのかもしれませんが、本書のように「ちゃんと聴く」ことを深堀できる今の時代はいい時代なのではないかと感じながら読了しました。


 

 


 


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