追熟読書会: NVC 非暴力コミュニケーション ワークブック

NVC 非暴力コミュニケーション ワークブック


koko
 丹羽順子 (著)


 ~親と子どもが心でつながる「キリン語」の子育て~



本書は、親と子のコミュニケーションの仕方についてのワークブックですが、親子に限らず様々な関係性で応用できる内容です書き込みをしながら学んでいくワークブックですから実際にやってみてくださいとしか言いようのない側面もありますが、他のNVCの本では余り詳しく取り上げていない内容などもありますので、いくつかピックアップして感想をまとめていきます。少しでも興味を持っていただければ嬉しく思います。







【NVCの4つの要素】


まず最初に、NVCとは何かということですが、英語でNonviolent Communication、略してNVC。日本語では非暴力コミュニケーションです。


以前にこのブログでも【NVC】人と人との関係にいのちを吹き込む法 という本のレビューを書いています。

基本的なコミュニケーションの方法としては4つの要素があります。


第1の要素「観察」とは、あるがままを見ること


第2の要素「感情」とは、あなた(わたし)そのもの


第3の要素「ニーズ」とは、幸せをかなえる原動力

 

第4の要素「リクエスト」とは、協力をしてもらえますか、と相手にお願いすること。


ということになりますが、簡単に観察や感情と言ってみても大変難しいことです。そのためこの4つの要素に関しても、ワークブックの後半で書き込みながら、学んでいく方式になっています。





NVCは共感的コミュニケーションとも言われています。

これは共感をして繋がりを育みながら、様々な対立を解消するコミュニケーション方法だからです。

それでは共感とはどういうことなのでしょう。



【共感とは


共感には自分に対する自己共感と、他の人に対する他者共感があります。その両方を同じぐらい大切にしながら、ゆっくりと会話を進めていくことが重要です。共感するためには、聴いて感じるだけの十分な時間がどうしても必要になってきます。そのため、ゆっくり進めていくことが大切なのです。


アメリカ生まれのコミュニケーション法はキリスト教に由来する言葉が多くなってしまいがちですが、共感的コミュニケーションという表現は万国共通で馴染みやすいと私は感じています。




さらに共感を深く考えていきます。


【同感と共感の違い


同感は、自分の経験や思いと相手が話す内容と照らし合わせて共通点を見つけること。これはあくまでも自分にフォーカスが向いています。一方共感は、相手が感じていることに寄り添って伝えられる言葉です。たとえ同感はできなくても共感はできます。同感は、相手に同意しない限りできません。一方共感は同意しなくても相手を受け入れる間口の広さがあります。




次に、本書のサブタイトルにもなっているキリン語とはどういうものなのでしょうか。


【キリンとジャッカル】


NVCの産みの親であるマーシャル・ローゼンバーグは「私たちは常にどっちが正しいかゲームをしている」とご自身の著書に書いています。そして私たちのコミュニケーションの特徴をキリンとジャッカルの2種類の動物を使って説明しています。


ジャッカル語は心の中に敵のイメージを持つ暴力的なコミュニケーションです。一方キリン語は非暴力コミュニケーションです。

キリンとジャッカルの例を出すと、嫌いな人のことを「あの人はジャッカルだ」と言ってしまいそうになったり、自分がジャッカルだと感じて悲しくなったりします。しかしNVCでは、一人の人間の中に、キリンもジャッカルも存在するという意味で使っています。「今まではジャッカル語だったけれども、これからはキリン語になる」と考えることができれば、それで十分なんです。



私が初めてこのキリンとジャッカルの話を聴いたとき、思い出したのは、「ジーキル博士とハイド氏」でした。二重人格を描いた小説と言われていますが、実はこの小説の最初の方に二重人格を否定するような表現があります。人間とは、一つの人格の中に矛盾した二面性を持つ不完全な存在である。だからこそバランスが取れているのである。このようなことが著者の主張ではないでしょうか。とにかくすぐに思い浮かんだのがこの小説でした。



ジャッカル語、キリン語、そのどちらにも内向きと外向きがあります。自分に暴力的な言葉をかける内向きジャッカル。他人に暴力的な言葉をかける外向きジャッカル。キリンも、内向きと外向きがあります。このキリン語の概念を知るだけでも、本書は非常に有意義な本ではないかと思います。



共感を学ぶこのワークブックを進めていくうえで重要になるキーワードがいくつかあります。そのキーワードに沿って進めていきます。



【パワーオーバーとパワーウィズ


パワーオーバーは、他者を支配しようとする力、圧力をかける服従の関係です。正解を知っているのだから知らないものに教えてやるのが私の仕事だというような考え方です。このような関係では共感の態度や声かけは発揮されません。


一方パワーウィズとは、他者とつながろうとする力。力を共有する対等な関係です。ここでは共感の態度や声かけが発揮されます。


最近は「他人をコントロールしない」という概念は多くの心理学や啓発書でテーマとして取り上げられています。そんなことは十分知っていると言いたくなることもあるでしょう。しかしその態度こそがパワーオーバーなのだと気づかせてくれるのもNVCの特徴なのかもしれません。じゃあ指導しなければならないときはどうするのかと疑問に思うでしょう。キリン語の概念を学ぶうちに少しずつ自分が変化していくと考えることができれば、自分で感じている以上の変化が起きている可能性があるのです。これが第一歩だと・・・著者が明確に書いているわけではありませんが私は勝手に感じています。



【呼吸】


NVCは、呼吸を非常に大切にしています。ジャッカル語が出そうになったときも吐く息を長くすることで安心やリラックスの神経が優位になります。すると力が抜け、心も和らぎます。本書では呼吸には多くのページを割いてはいないため、呼吸については別の本で学んでいただく方がいいかもしれません。



【観察】


見たもの、聴いたものをありのままに捉え、解釈や評価をしないこと。


私たちは長年のクセで道徳的な判断や決めつけにあふれているので、それは良くないことだ、あの人はいつもそうなのよ、などとすぐ批判的な言葉を心の中で叫んでしまいます。これは本当に耳の痛いことです。第一段階から躓きそうになってしまいますが、「これからはキリン語で」というスタンスを思い出して前に進みましょう。



【感情】


最もやっかいなもの、それが感情ではないかと思う。そもそも感情って何?


感情とは、あなたそのものと本書では説明しています。心の中に立ち現れる様々な思い、心の状態。英語のemotionはエネルギーと動きを合わせた言葉だそうです。


どんな感情も等しく大切。特にネガティブな感情こそ見過ごさないように。怒りなどの感情は、ものすごいスピードでやってきて、コントロールする間もなく放出されます。著者は「怒りをギフト」として受け取るようにしているとのこと。まず深呼吸、そして心に敵を作っているジャッカルの自分に気づく。そこから自己共感へ。



ニーズ、リクエストに関しては実際にワークブックをやってみてくださいというのが一番の近道ではないかと思います。




最後に【聴く】ということについて


「聴」という漢字は「ゆるす」とも読みます。もう何年も前のことですが、この読み方を知ったときに、なるほどと納得感がありました。しかし何人かの友人にこの読み方のことを話しても余り反応がありませんでした。何か私が勘違いしていると思ったのかもしれません。このワークブックで聴す(ゆるす)という表記がでてきたことは感慨深いことです。




いかがでしたでしょうか。


実際にワークをやってみると自分の感情に気づかずに通り過ぎていることの多さに驚きます。見せかけの感情というキャッチーな言葉も出てきます。自分の感情に蓋をしたり、その奥にある本当のニーズに気づかないフリをしたり。さらにいえばリクエストは苦手だから黙っていることも多いなと・・・


今まで読んだNVCの本よりもソフトな切り口でありながら学びが多い本という印象でした。平易な言葉で書かれているので、サラリと読んでしまいがちですが、ワークがありますから、まさに歩く速度を緩めて立ち止まる感覚になります。興味を持ったかたはぜひ手にとってみてください。










0 件のコメント: