2023/11/28

【NVC】人と人との関係にいのちを吹き込む法

 



アメリカの臨床心理学者
マーシャル・B・ローゼンバーグ(著)

◆のマークの部分は感想を書いています。その他の部分は本書の内容をまとめています。





 

 

『NVCとは何か』

 

NVCが、基盤としているのは、過酷な状況に置かれてもなお人間らしくあり続けるための言葉とコミュニケーションのスキルである。

 

具体的には、自分を表現し、他人の言葉に耳を傾ける方法を組み立て直す。反射的に反応するのではなく、自分が何を観察しているのか、どう感じているのか、何を必要としているのかを把握した上で、意識的な反応として言葉を発するようにする。


 

『NVCの4つのプロセス』  

第1の要素は【観察 Observation】状況を観察し、人が言ったことやしたことが私たちの人生の豊かさにどう影響しているかを、判断や評価を交えずに述べる

  • 観察は重要な要素だが、評価と観察を一緒にしてしまうと、こちらが伝えたいメッセージを相手が聞き取ってくれる可能性が減ってしまう。相手はむしろ批判として受け取り、反発する可能性が高い。


第2の要素は、
感情 Feeling相手の行動を観察したとき、自分がどう感じるか 

  • 自分がどう感じているのかを表現する。いつの時代も価値が置かれていたのは正しい考え方であり、感情は重要視されていなかったため、人間の感情を表現する語彙は少ない。自分の感情を表現する語彙力の向上に努めれば人間関係にプラス効果がある。


第3の要素は、
ニーズ Need自分が何を必要としているからそのような感情が生み出されているのかを明確にする 

  • 評価する、一方的に解釈する、勝手に想像するといった形で何かを表現すると、言われた側は批判されていると受け止めがちだ。それよりも、感じていることを自分が必要としていることと直接結び付けられれば、相手は思いやりを持って答えやすくなる。

第4の要素は、リクエスト Request相手に私たちの人生を豊かに、そして素晴らしくするための具体的な要求をする 

  • 自分の必要としていることが満たされていないとき、観察し、感じ、自分が必要としていることを自覚し、さらに具体的な要求をする。何を要求していないかではなく何を要求しているかを表明する。要求に応じなければ、非難されたり、罰せられたりすると相手に思われてしまうと、要求は強要となってしまう。

 

NVCとは、この4つの情報を、言葉、あるいは言葉以外の手段で非常に明確に表明すること。そしてまた、この4つの情報を他者から受け取ることで成り立つコミュニケーションである。


◆NVCの4つの要素はシンプルで分かりやすい感じを受けるが、一つ一つを考え始めると深い内容が語られていることに驚く。批判せずに周囲を観察できているか。これだけでも本当に難しいことなのだと痛感する。本書を読むのは非常に時間がかかった。それはこの最初の部分で考えさせられることが多かったからである。

◆ニーズは日本人にも馴染みのある言葉だがNVCのニーズとは生命を維持するためにどうしても必要なものと著者は説明している。具体的なものとしては、空気や水、食料、休息など。さらには、理解や支援、正直さ、意味など心理的なものもある。人はみな、国籍や宗教、性別、収入、教育などの違いを超えて基本的に同じことを必要としているが、ニーズを満たす手段は受けた教育や文化によって違うとのこと。ニーズもまた解釈の難しい要素である。NVC JapanのHPに掲載されているNVC入門講座の動画4本のうち、「その2/4」でニーズの解説をしている。

【動画】NVC入門講座 by マーシャル・ローゼンバーグ

ニーズは好みとは違っていること、相手の人をニーズの中に入れてはいけないことなどをキリンとジャッカルのパペットと使って語っている。この概念が理解できなければNVCの実践は困難になるだろうと思う。HPには資料も多数掲載されていて、ニーズを表現する言葉の一覧表もあるので興味を持ったかたは参考にしていただきたい。

◆本書にはエクサイズや事例がたくさん出てくる。繰り返し繰り返し4つの要素を解説しているが後半は共感の仕方や紛争解決の方法など具体的な活用例になっている。とにかく事例が豊富なので、実際に読んでいただきたいとしか言いようがないが、面白かったポイントをいくつか、まとめておきたいと思う。 

 

 

『思いやる気持ちを妨げるコミュニケーション』

私たちには、生まれつき人を思いやる気持ちが備わっているというのに、それをなかなか発揮できなくなっているのはなぜか。それは言葉が非常に重要な役割を担っているからである。あるタイプの言葉とコミュニケーション方法=「心の底からの訴えを遠ざけてしまうコミュニケーション」は、人や自分に対して暴力的に働く一因となる。このようなコミュニケーションは自分自身も自分以外の人も傷つけてしまう。

 ▶心の底からの訴えを遠ざけてしまうコミュニケーション 

    1. 道徳を振りかざして人を裁く
    2. 比較というかたちで人を評価する
    3. 自分の責任を回避しようとする
    4. 自分の願望を強要する

 

 

『共感を持って受け取る』

 ・共感とは、自分以外の人の経験を敬意とともに理解することだ。相手に対する先入観や決めつけを排除したとき初めて共感が生まれる。共感を求めている人にとって、励ましや改善策のアドバイスを欲しがっていると思われることはフラストレーションとなりかねない。共感をするために大切なのは、ただそこにいるということである。努力しているにもかかわらず、どうしても共感できない。もしくは共感する気になれない場合は、自分自身が他者からの共感を強く望んでいて、それが妨げになっているというサインである。

 

 

『思いやりを持って自分自身とつながる』

・NVCは、自分自身との関係作りにおいて最も真価を発揮する。自分自身に対して暴力的になっているとき、自分以外の人に心から思いやりを持つことは難しい。自分自身を批判したり非難したり、強要したりするコミュニケーションを繰り返し取り続ければ、自分が人間というよりも、モノに感じられてしまう。自分が必要としていることがどのように満たされているかといった視点で、自らを評価するとことを学んだ方が得られるものは、はるかに大きい。



『自分を許す』

・もしも自分の言動に対し、「ほら、またしくじった!」などと、とがめだてをする自分に気づいたら、すぐさまストップして自分に問いかけてみる。道徳をふりかざして厳しく叱責している奥には、どんなニーズがあり、何を満たそうと願っているのだろうか。

・悔やむプロセスをフォローするのは「許すプロセス」である。いま悔やんでいる自分の振舞いは、元々自分が必要としている何を満たすための振舞いだったのだろうか。人はどんなときでも自分が必要としていることを満たすために、そして価値観に忠実であろうとするために行動する。結果的に後悔したとしてもである。

  


『怒りを十分に表現する』

・NVCへの理解を深めるための絶好のきっかけとなるのが、怒りという感情である。怒りが生まれるのは相手を責める選択肢を選んだときだ。怒りを無視したり、押し込んだり飲み込んだりすることではなく、それよりも怒りの核心を心の底から十分に表現することが必要だ。

・怒りを十分に表現する第1ステップは私たちの怒りの責任から相手を解放することである。「彼、彼女、彼らが、ああいうことをしたから、私は怒ったのだ」という考えを手放すこと。人の言動は私たちの感情を刺激することはあっても、感情の原因とはならない。怒りが湧く度に相手の落ち度を探す。私たちは人に対して、間違っている、あるいは罰に値すると裁定を下し、相手を非難する。これが怒りの理由であると考えられる。

・義憤に駆られることもあるのではないかという疑問もでてくるだろう。しかし、罪を犯した人はどんな人間なのかといった意見に賛成したり反対したりする代わりに、自分たちが何を必要としているのかに注意を向けることで人生により貢献できる。自分が必要としていることを満たすにはエネルギーが必要だ。怒りは私たちのエネルギーを「人を罰すること」に向けてしまう。そのため、自分が必要としていることは満たされないままとなる。大切なことは、義憤に駆られるのではなく、自分自身、あるいは相手が必要としていることと共感を持ってつながることである。

 


『紛争を解決する』

・NVCを活用して紛争解決を行う場合、どんなケースであってもこれまで述べてきた原則通りに進める。最も重要なのは、当事者同士が人としてのつながりを築くこと。また、目指すゴールは自分の意向に沿って相手が動く状態ではないことを当事者双方があらかじめ理解しておく必要がある。その理解があれば、話し合いが実現できる。多くのプロの調停者の調停方法と、NVCを活用する場合とでは大きく異なる。多くの調停者は、紛争の当事者同士の関係を築こうとするより、争点を把握し、そこに焦点を当てて調停を進める。人と人との関係をより質の高いものにしていくことには、全く目を向けようとしない。

 


『力を防御的に使う』

・状況によっては対話の機会が生まれないこともある。そうなると、人命あるいは個人の権利を守るために力の行使が必要になるかもしれない。「力の防御的行使」は被害あるいは不正を防ぐことが目的だが、「力の懲罰的行使」は悪事と思われる行為を働いた個人に苦痛を与えることが目的である。

・懲罰的な力の行使は敵意を招きやすい。懲罰を与えられた側の善意と自尊心は損なわれ、行動の本質的な価値よりも結果のみを考えるようになる。非難や懲罰は、私たちが相手のなかに引き起こしたいと願っている動機の芽を摘み取ってしまう。力を防御的に使う場合は、相手に対して、あるいは相手の振舞いに対して評価を下してはいけない。

 


『感謝を表現する』

・賞賛と賛辞の言葉が、よりよく生きることを遠ざけているなどというと多くの人は驚くだろう。しかし賛辞は話し手が判定を下す者の座に収まっていることに注目すべきである。相手への評価は肯定的なものでも否定的なものでも、心の底からの訴えを遠ざけてしまうコミュニケーションである。企業で研修を行うと称賛と賛辞は効き目があるという考えの管理職に出会う。賛辞により受け手がよく働くようになったとしても、それは長続きしない。操作してやろうという意図で褒め言葉が使われているのを察したとたんに生産性は落ちる。

・感謝の言葉を優雅に受け止められる人はめったにいない。自分はそれに値するのだろうかなどと考えてしまうからだ。人と人は互いの人生の質を高めることに貢献できているという現実を、喜びとともに受け取ることが大切である。私たちは感謝の言葉を受け取ると落ち着かない気分になるくせに、大抵の人は純粋に認められて感謝されることを熱望する。何とも矛盾した存在なのである。



◆どんなに頑張っても相手側にコミュニケーションをとる意志がない場合や、自分が相手に共感できない場合のことなども書かれている。この類の本で、ここまで書くのは珍しいのではないだろうか。とくに「力を防御的に使う」の章は共感できる点が多かった。しかし相手の言動を評価せずに介入するのは難しいことだと思う。これまでNVCの本を2冊読んできた。しかしまだまだ十分に理解できてはいない。引き続き勉強していくつもりだが、とりあえずは一旦読了とする。



0 件のコメント: