2023/11/03

口ぐせで人生は決まる


 


~こころの免疫力を上げる言葉の習慣~

 中島 輝(著)







近年急速に自己肯定感という言葉が広がり始め、同時に誤解も多くなってきた。本書ではまず自己肯定感とは何かを考え、どうしたら自己肯定感は高くなるのかを説明している。

自己肯定感が高いイコール自己評価が高いと思っている人がいるがこれは間違いである。人間は社会的な動物であり社会の中で生きている限り心に傷を負う。この場合の対処法は2つ。まず攻撃を防御すること。そしてもう1つは早く回復すること。心にも免疫力があり自然治癒をさせることができる。この心の免疫力こそが自己肯定感である。


ではどうすればいいのか。

心は「言葉」で作られているので、この言葉の習慣を改善することで回復していくのである。


『人間は地球上でただ1つの知的生命体』

知的生命体には3つの特徴がある。

    1. 言葉を持っていること
    2. 時間の概念があること
    3. 発想力をもつこと
※ここで重要なのは、時間の概念も発想力もすべて「言葉」があって生まれたもの、すべては言葉から始まっていることである。

・私たちは声に出さなくても頭の中で、常にいろんな言葉を思い浮かべている。さらに他人との対話、自然に耳に入ってくる会話、SNSやテレビの声、駅のアナウンスなどを入れると莫大な数の言葉を浴びている。その中で自分でコントロールできるのは、自分自身が口にする言葉しかない。だからこそ口ぐせを意識していくことは重要になる。


『言葉の習慣』

・口ぐせの習慣を変えると聞いて、どんなイメージを持つだろうか。ネガティブな言葉からポジティブな言葉への言い換えではないだろうか。しかし、言い換えのパターンを1000個覚えたところで何の意味もない。口ぐせとは、意識せずとも出てくる言葉のこと。

・言い換えの意識が頭にあるうちは口ぐせとは言えず、習慣そのものの変化とは言えない。目的はあくまでも失われた自己肯定感を取り戻すことである。その手段として言い換えがある。言い換えの丸暗記にならないように注意が必要。

・言葉の習慣とは単語レベルの問題ではない。例えば口調や声のトーン、言葉を発するときの表情、長い文章を話すときの言い回しなど、言葉にまつわる癖の全てに変化の余地がある。

・自分の口ぐせを振り返ろう。直視して向き合わないことには改善は始まらない。まずはありのままの言葉の習慣を把握し、受け入れることから始めていく。


『口ぐせを振り返る』

(1)口ぐせのジャーナリング

やり方としては誰かと話した後などに、自分がどういう言葉を使ったか、どんな話題についてやり取りしたか記録をつけていく。

(2)会話を録音する

会話を録音して聞き返す。

3)人に尋ねる

普段からよく話している相手に「私ってどんな口ぐせがあるかな」と直接尋ねてみる。

(4)LINEを見返す

テキストなので、単語や文章の言い回しだけにはなるが、視覚的に振り返ることで、よりしっかり口ぐせを認識できるメリットもある。

(5)日記をつける

日記が個人的なものであればあるほど自然と出てくる率直な言葉を振り返る材料になる。


『身に付けたい4つの口ぐせ

・まずは自分の口ぐせを振り返る。そして危険信号の口ぐせを知り、自分が使っていないかチェックする。そうしたら次はいよいよ「いい口ぐせ」のインストールを。

①肯定語を多用する

「できる」

「大丈夫」 

「OK」

「何とかなる」などが肯定語の代表格。

注意すべきことは、自分の心に嘘をついて八方美人になってしまうこと。言うべきNOやNGは大事にしよう。

②「かもしれない」をつけ足す

よくない口ぐせを止めようと意識しても最初はなかなかうまくいかないかもしれない。特に否定語を使いがちな人が肯定語を使うのは考え方を180度転換するようなものだから難しい部分もある。否定語が顔を出してしまったときには「かもしれない」という言葉を付け加える。

「もう無理・・・」の後に「かもしれない」と言うのである。

これは心理療法の現場で使われている脱フュージョンというテクニックACTから派生した考え方で、ネガティブな感情と距離をとって、負のループに陥りにくくする手法である。

駄目だというネガティブな感情だけに頭を占領されず、別の要素を入れたり、第三者目線を取り入れたりしてマイナス感情と距離を取ることに狙いがある。

アファメーションを習慣化する。

アファメーションとは肯定的な自己宣言のこと。思い描いている理想や、望む結果を言葉にして宣言し、自分自身に語りかける。これだけ聞くと怪しい宗教のように感じるかもしれないが、アファメーションの効果は様々な実験によって実証されている。

にこやかに声を響かせる

話し方によって自己肯定感を高めることもできる。ポイントは声量と表情、大きな声を出すことによって脳内にアドレナリンが分泌され、より大きな力が発揮できる。どんなときでも口角を上げて笑顔になれば心に非常に良い影響が生まれる。大声を出すのが苦手な人は、誰かになりきって話をしてみるのもいい。


『ありがとう

・「ありがとう」は口ぐせの中でも最強のものである。これは言うまでもなく感謝の言葉。「ありがとう」と口に出すとき、心は必ずポジティブな状態になる。

・「ありがとう」は言った側も言われた側も絶対にポジティブな気持ちになれる魔法の言葉である。脈絡がなくても、心が伴っていなくても構わない。思ってもいないのに「ありがとう」なんて言いたくないという人がいる。しかし、意識的に「ありがとう」と言葉にすることには大きな意味がある。

条件反射的に、「ありがとう」と言ってみると、その言葉がワンクッションになるので、冷静に次の選択肢を考えるれるようになる。それだけではなく、だんだんと自分自身への感謝の気持ちも湧いてくる。そうして少しずつ自分を受け入れられるようになる。

・口ぐせとして「ありがとう」をたくさん言うようになると、「ありがとう」を見つける目が育っていく。物事の肯定的な側面を見て、些細なことにも感謝ができるようになる。ぜひ、「ありがとう」を口ぐせにして、うまくいく人生を送ってほしい。


『習慣化すること』

・脳は繰り返しを優先するという事実がある。受け取った言葉が真実かどうかに関わらず、もうそれを真実として受け入れて優先するようになる。繰り返しメソッドは2つのやり方がある。

①その場で同じ言葉を繰り返す

3回繰り返すことがおすすめ。大丈夫と思ったとき、「大丈夫、大丈夫、大丈夫」と3回唱えてみる。そうすることで脳にとっては大丈夫ということが優先されていく。

②毎日繰り返すこと

おすすめは朝一番に繰り返すこと。朝の時間を少しだけ良い方向へ向けることで、人生は大きく変わっていく。

・習慣化にはまず2ヶ月。

ロンドン大学のフィリップ・ラリー博士らの研究によると、単純な事柄であれば、21日間続ければ習慣化するとのこと。複雑な変化であっても、2ヶ月ほど継続すれば習慣化するとも言われている。


『ネガティブ感情

・ネガティブ感情は吐き出して捨てる。言葉に義務感を持つのはやめる。これは言っちゃ駄目、こんな言い方をすべきじゃないという思考で自分を縛らない。

・どんなに自己肯定感が高い人でも、ネガティブな感情が湧くことはある。つらい気持ちになったり落ち込むこともある。それに蓋をしたら心の中に溜まってしまう。それでは全くの逆効果。悪い口ぐせを一度でも言ってしまったら取り戻せないなんてことはない。自己肯定感はいつからでも取り戻せる。ネガティブな感情を否定するのではなく、受け入れて、そこから素早く回復できる方法を行っていくことが、自己肯定感の高いアクションだと言える。


『ポジティブ信仰の危険性

・自己肯定感の勘違いの中に、自己肯定感が高い人はポジティブであるという考え方がある。だが、自己肯定感を高めるというのはポジティブになることではない。ポジティブ信仰は強くなりすぎると危険である。

・不安や恐怖といったネガティブ感情は生きるために必要不可欠な感情である。だからこそ自分の中にあるネガティブな要素を受け入れた上で、ポジティブな側面に光を当てることが重要になる。ポジティブな感情も、ネガティブな感情も使いどころや使い方を間違えないことが何よりも大切。


『心理的安全性と安心感

・心理的安全性とは、自分の言動に対して拒絶されたり罰せられたりする不安や恐怖のない状態のこと。心理的安全性は、外的要因による安全の保障のことである。安心感とどう違うのか。安心感は内発的なもの。安心感を作るのは誰かではなく、自分自身である。

・安心感を生み出す3つの要素

①心のシェルターを持つ

自分にとって安心安全なコミュニティを持つ。もしくはこの人がわかってくれればいいと思えるシェルター的な人物を持つ。

②世界の広さや人生の長さを知る

人生を一つの側面、一時的、一点だけで見ない目線を持つこと。もしこの1つが駄目になっても別の道がある。これで人生が終わるわけじゃない。そんなふうに思える感覚が生まれていくと、肩の力が抜けて安心感が強まっていく。

③人を信じること

もっと人を頼ってもいいんだと気づけたら、安心して生きていけるようになるはずである。

 

『再び、自己肯定感とは何か

自己肯定感とは「こころの免疫力」心が風邪をひいてしまわないよう予防してくれるものである。ここではさらに6つの観点から説明していく。

自尊感情

私という人間が、あるがままに、ただそこに存在しているだけで価値があると思えている状態のこと。基本的人権に近い考え方かもしれない。

自己受容感

自分のポジティブな面も、ネガティブな面も受け入れられる感覚。これが自分なんだ、これでOKなんだと思えること。

自己効力感

自分は何かを成し遂げられると思える感覚が自己効力感。あまり高い壁を見上げていると、自分にはどうせ無理だという声が頭の中に響くようになる。スモールステップを使ってみよう。

自己信頼感

自分自身を信じられる感覚のこと。自分の未来を信じてその力を頼りにするというのが一番近い感覚かもしれない。自分のことを信頼できていないと、他者の言動に左右されがちになる。

自己決定感

自分で選択したり決定したりすることができるという感覚のこと。自己決定の低い人は幸福感も低くなる。その結果、今の自分がこんなに不幸せなのはあの人のせいだと他責的な発想をするようになる。

自己有用感

周囲の人や社会にとって、自分は役に立てていると思える感覚のこと。この実感はそのまま私はここにいてもいいんだという安心感や所属感につながる


・専門家も含め、多くの人は自己肯定感のことを一つの感情として考える。そのため、何かが足りていないだけなのに、自分を全否定してしまう。足りないところに目を向けすぎず、セルフチェックのツールとして、この6つを覚えて自分に足りないパーツの口ぐせを重点的に備えていけばいいのである。


『最終目標

最終目標、それは自立である。ではそもそも自立とはどのような状態を言うのか。自立には2つの観点がある。1つは経済的自立、もう1つは精神的自立。自己肯定感を高める最終目標は、心の問題なので精神的自立のことを指す。

・精神的な自立とはどんな状態なのか。自分で考え自分で決めること。精神的に自立することによって、人は自由を勝ち取ることができる。選択権や決定権を持ち、実行力があること。注意してほしいのは孤立や独立ではないということ。私達は人との繋がりなくして安心感を醸成することなどはできない。


『おわりに』

・私達はありのままの自分で自由に生きていくことを求めている。とりあえず本書で紹介した口ぐせを言ってみてほしい。「ありがとう」って毎日言うと自己肯定感が上がるらしいよ、という言葉を信じて実践してみるのである。よい口ぐせは、スーパーに買いに行く必要がないのでお金がかからない。時間も使わない。どこにいてもできる。今すぐに試せることである。


まずは「ありがとう」

その一言からあなたの人生が変わり始める。

 

◆著者の中島さんは、25歳から10年もの間、引きこもり生活をしていたとのこと。自殺未遂を繰り返す困難な精神状態の中、独学で心理学やセラピーを学び、自ら実践し、回復した過去をもつ。大変な体験を乗り越えてきたからなのだろうか、優しい平易な言葉のなかにも説得力がある。強く共感しながら読了した。本書にはよい口ぐせの例もたくさん掲載されているので、興味のあるかたはぜひ読んでみていただきたい。

◆たとえ本心からでなくても「ありがとう」と言うと、その言葉がワンクッションになって、冷静に次の選択肢を考えるれるようになる。この一文が本書で一番心に残った。仕事でお客様さまと話しているときに、何となく間がもたなくなって「ありがとうございます」と言ってしまうことがあった。何が「ありがとう」なのかよくわからなくても、それでも言っていい言葉なのだということがわかって何だか安心した。とても読みやすくて、読むこと自体が癒される体験だった。



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