2023/10/06

DVはなおせる! ―加害者・被害者は変われる(1)


 

 

   栗原加代美(著)

  NPO法人 女性・人権支援センター ステップ理事長

 

 


著者の栗原さんは、DV被害者女性を保護するシェルターを開設し、DV加害者更生プログラムを実施している。1年間で52回受講する更生プログラムはアメリカの精神科医グラッサー博士の選択理論をベースにしている。

本書は見えにくいDVの実態と更生プログラムの内容を解説するものである。


非常に中身の濃い本なのでを2回に分けて読んでいくこととする。

今回はDVとは何か、被害者と加害者の関係性、加害者の特徴を中心にまとめていく。


『DVの本質』

●DVは、英語の「domestic violence」ドメスティックバイオレンスの略で、一般的な意味では配偶者や恋人など親密な関係にある人からふるわれる様々な暴力のこと。簡単に言えば「家庭内暴力」と理解されている。この暴力を殴る蹴るという身体的暴力のことだと思っている人が多いが、それはDVそのものではない。DVとは、力で相手を支配しようとする関係性のことである。暴力とは支配するための道具にすぎない。

●理想的な夫婦関係というのは車の運転でいえば、夫も妻もそれぞれがマイカーを運転している状態。車という人生の舵をそれぞれが自分の意志でとっている「対等な関係」である。

●一方、DV夫婦の関係性を車の運転に例えると、夫が妻の車の助手席に乗り、妻が右にハンドルを切ろうとすると左に行け、進もうとすると止まれというように、どう運転すべきかを夫が指示しているような状態、つまり夫が妻に「ああしろ、こうしろ」と命令して妻の人生を夫が一方的に支配する関係である。

●自分は正しい。間違っているのは相手。パートナーに対してこうあるべき、こうするべきと自分のゆがんだ価値観や理想をさも正論のように伝え従わせようとする。相手を矯正することが自分の使命と考え、相手を正そうとしているのである。

『被害者と加害者』

●加害者の多くは、たいてい被害者意識を持っている。相手が怒らせるようなことをしなければ、私は加害者にならずに済んだ。相手の駄目なところを叱るのは相手のためだ。などと自分の行為を正当化し被害者意識を持つ人も少なくない。

●加害者が悪いのはお前だと責め続けるため、被害者はじわじわと屈辱感や罪悪感を植え付けられ、やがて自分の方が加害者であるかのような錯覚に陥ってしまうこともある。

●被害者の中には、自分がDV被害者とは認めたくないという気持ちがあったり、相手は自分のためを思って叱ってくれているのだと容認するような格好になってしまうこともある。こうなってしまうと、被害者は被害者になることができない。

●意外かもしれないが、加害者は決してパートナーのことが憎くてDVをしているわけではない。DV加害者は基本的にパートナーのことを、少なくとも愛していると思っている。親しい相手への期待と甘えから生じる行為ともいえる。

●対等な者同士が対等に物を言い合うのはDVではなくケンカである。言いたいことが言える関係はむしろ上手くいっている証拠ともいえる。しかし夫婦ゲンカのつもりでも、相手のことを心のどこかで怖いと感じて怯えているとしたらそれはDV。

●妻が夫に対する恐怖心から「ごめんなさい、私が悪かったわ」と一言でも謝ると、それは夫にとって成功体験になり、やっぱり自分は正しかったという過信を生み、DV行為を加速させることになる。

●被害者がいないと加害者は生まれず、当事者がいなければ、DV問題は存在せず、解決することもできない。DVの被害を受けている人は、まず被害者になってもらいたい。


『加害者の特徴』

●すべては自分の弱さ、自分の間違いを認められないという弱さであるが、加害者には共通する心理パターンがある
 ①自分は正しいという考え
妻は夫に従うべきなどのゆがんだ価値観や思想思考がある。次にそこから自分を正当化しようとする。
 ②自尊心が低い
お前は駄目だとした否定されながら育ったことで大人になっても自己評価が低く、自分の価値を認められずにいる。自尊心が低いままだと自分を信じることが難しくなる。
 ③自信がない
本当は自信がないのに自信があるふりをしている。そのために自分は間違っていないと強く思い込もうとする。
 ④相手に対する依存
自分の欲求を自分で満たすことができず、相手に依存していく。

●加害者は年齢や職業、経済力などの要素とは無関係。加害者の約8割は外見上は普通かむしろ評判が良く、周囲の信頼も厚く、あの人に限ってと思われるような人物である。

●DV加害者の暴力行為は、基本的にパートナーや子供、あるいはペットなど、身近にいる弱い相手にしか向けられない。このように限られた対象にしか暴力を行使しないのであれば、生まれつき暴力的な人間とは言えない。

●こうした後天的に身につけた価値観や意識は次のようなものがある。
暴力容認意識
ジェンダーバイアス(男らしさ、女らしさへの強いこだわり)
力と支配(立場的に上下のある関係に存在する)
特権意識
被害者意識
子供の心の傷つき体験(親からの虐待など)


『怒りのメカニズム』

●DVは無意識のうちに刷り込まれたゆがんだ価値観によって生まれる怒り行動と考えられる。

●怒りは私達人間が生まれながらに持っている感情であり、誰一人として怒りを避けることはできない。これは選択理論を考案したグラッサー博士の言葉。決してDV加害者が特別というわけではない。

●さらにグラッサー博士は、怒りの感情は自分の期待していること、つまり欲していることと現実とのギャップによって生じるとも言っている。


『選択理論の5つの基本的欲求』

人は自分の期待や理想がかなわないと怒りを感じる。この期待や理想の根底にあるのが基本的欲求。「人は基本的欲求を満たそうとして、なにか行動することを動機づけられる」と選択理論では考えている。これらの基本的欲求の強さは人によって異なる。

●自分の欲求の強さをについて知ることで、気分が悪いときはどの欲求が満たされていないのか、気分が良いときは何が満たされているのかがわかる。

5つの基本的欲求とは、

愛・所属の欲求
力の欲求
自由の欲求
楽しみの欲求
生存の欲求

DV加害者は力の欲求が強い。力の欲求は承認欲求、達成欲求、競争欲求、貢献欲求の4つの要素がある。この貢献欲求の強い妻と自分に従わせたいという達成要求の強い夫が一緒になるとDV関係が生まれる。


『上質世界』

●私たちは基本的欲求が満たされることで満足していい気分になる。しかし基本的欲求は直接意識できるものではない。意識できるのは自分の気分であり、できるだけいつもいい気分でいたいと思っている。

●基本的欲求を満たすことができるように、自分にとって気分の良いものや、心地よいものをストックしている場所が私たちの心の中にあると選択理論では考えている。これを上質世界と呼んでいる。心の中のアルバムのようなものである。

●この上質世界の上質というのは一般的な意味ではなく、その人個人の願望や理想のこと。上質世界という理想の世界に入っているものを得たいと思いそのイメージにできる限り近くなる行動をしようと私たちは努力をする。

●DV加害者の上質世界に入っているのは不完全な価値観や考え方「べき思想」や「である思想」のことが多い。こういう上質世界は思うようには満たされない。そうして、加害者は、自分の願望や理想と現実とのギャップを埋めるために、怒り行動を使う。それしか知らないからである。脳の中に理想の世界と現実の世界と比べる天秤がと考えるとイメージしやすい。


『加害者に共通する習慣』

●グラッサー博士は人をコントロールしようとすることを「外的コントロール」と名付け、関係を破壊する致命的な7つの習慣があると説明している。
   批判する
   責める
   文句を言う
   ガミガミ言う
   脅す
   罰する
   褒美で釣る


『なぜDVから逃げられないのか』

●悪いのは自分かもしれない。ダメな自分を叱ってくれるのは愛情。自分さえ我慢すれば。などの感情が絡み合って被害者はDVに無自覚になっていく。

●人間の心理として、強い精神的ショックを受けると自分の心を守るために、あえて感覚を鈍らせたり現実逃避をしてしまう。

●DV行為によって怒りのエネルギーを一気に発散した加害者は気持ちが落ち着いて冷静さを取り戻す。ちょっとやりすぎたかなという気持ちになって、相手に優しく」接するようになる。このサイクルが被害者を混乱させる。

『問題解決のきっかけとなる質問』

●被害者が離婚を選ぶとしても「どうしたいの」と最初に被害者の願望を聞くべきである。「どうしたいの」と問われると被害者は、自分はどうしたいのだろうと未来の自身と向き合うことになるからである。そして自分を見つめることで、まず自身の置かれた状況を冷静に把握できるようになる。

●まずは「どうしたの」と話をよく聞く。そしてある程度胸の内を吐き出して被害者が落ち着いてきたら「どうしたいの」と願望を聞き、そのために「どうしたらいいか」を一緒に考えていく。

※どうしたの、どうしたいの、どうしたらいいの、この3つの質問は、被害者が自分を取り戻しDV問題に向き合い解決しようとするきっかけとなる。

◆DVの原因~どうして逃げられないのか問題解決のきっかけまで読んできたが選択理論のエキスが詰まった内容だった。暴力は支配の手段でしかない。口調が静かだったり、一見優しかったりしながら支配していくこともあり得る。などなど怖い内容もあった。特に私が興味を感じたのは加害者に被害者意識があること。これは子どものいじめや職場のパワハラにも共通している。一方の話だけ聞いたのでは真実はわからないことが多い。相手に正しいことを教えるのは私の責任だという考えは本当に怖いと再認識した。

◆夫婦の関係性を示す車の運転の話もわかりやすかったが、力の欲求の4つの要素が非常にわかりやすいと感じた。選択理論を勉強中の私は今までも同じような説明を何度か聞いている。しかし貢献欲求についてここまで言及しているのは初めてのような気がする。自由の欲求と力の欲求がぶつかるのはわかりやすい原理だ。だが力の欲求が貢献と達成という違う方向に働きDV関係を作っていくという考えは新鮮だった。他者貢献によって自分の力の欲求を満足させるのはいいことだと漠然と考えていたので、この後もう少し考えてみる必要がある。

◆とにかくとても興味深くここまで読み進めてきた。次回は後半の部分「DVをなおすプログラムの基本」これは選択理論とアンガーマネジメントなどの合体したものになっているようだ。パラパラとめくってみた感じでは、やはり選択理論が濃厚に語られている。それでは後半へGO!

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