栗原加代美(著)
NPO法人 女性・人権支援センター ステップ理事長
著者の栗原さんは、DV被害者女性を保護するシェルターを開設し、DV加害者更生プログラムを実施している。1年間で52回受講する更生プログラムはアメリカの精神科医グラッサー博士の選択理論をベースにしている。
本書は見えにくいDVの実態と更生プログラムの内容を解説するものである。
非常に中身の濃い本なのでを2回に分けて読んでいくこととする。
今回はDVとは何か、被害者と加害者の関係性、加害者の特徴を中心にまとめていく。
『DVの本質』
●DVは、英語の「domestic violence」ドメスティックバイオレンスの略で、一般的な意味では配偶者や恋人など親密な関係にある人からふるわれる様々な暴力のこと。簡単に言えば「家庭内暴力」と理解されている。この暴力を殴る蹴るという身体的暴力のことだと思っている人が多いが、それはDVそのものではない。DVとは、力で相手を支配しようとする関係性のことである。暴力とは支配するための道具にすぎない。●自分は正しい。間違っているのは相手。パートナーに対してこうあるべき、こうするべきと自分のゆがんだ価値観や理想をさも正論のように伝え従わせようとする。相手を矯正することが自分の使命と考え、相手を正そうとしているのである。
『被害者と加害者』
●加害者の多くは、たいてい被害者意識を持っている。相手が怒らせるようなことをしなければ、私は加害者にならずに済んだ。相手の駄目なところを叱るのは相手のためだ。などと自分の行為を正当化し被害者意識を持つ人も少なくない。『加害者の特徴』
●すべては自分の弱さ、自分の間違いを認められないという弱さであるが、加害者には共通する心理パターンがある①自分は正しいという考え
妻は夫に従うべきなどのゆがんだ価値観や思想思考がある。次にそこから自分を正当化しようとする。②自尊心が低い
お前は駄目だとした否定されながら育ったことで大人になっても自己評価が低く、自分の価値を認められずにいる。自尊心が低いままだと自分を信じることが難しくなる。
本当は自信がないのに自信があるふりをしている。そのために自分は間違っていないと強く思い込もうとする。④相手に対する依存
自分の欲求を自分で満たすことができず、相手に依存していく。●加害者は年齢や職業、経済力などの要素とは無関係。加害者の約8割は外見上は普通かむしろ評判が良く、周囲の信頼も厚く、あの人に限ってと思われるような人物である。
暴力容認意識
ジェンダーバイアス(男らしさ、女らしさへの強いこだわり)
力と支配(立場的に上下のある関係に存在する)
特権意識
被害者意識
子供の心の傷つき体験(親からの虐待など)
『怒りのメカニズム』
●DVは無意識のうちに刷り込まれたゆがんだ価値観によって生まれる怒り行動と考えられる。
●怒りは私達人間が生まれながらに持っている感情であり、誰一人として怒りを避けることはできない。これは選択理論を考案したグラッサー博士の言葉。決してDV加害者が特別というわけではない。
●さらにグラッサー博士は、怒りの感情は自分の期待していること、つまり欲していることと現実とのギャップによって生じるとも言っている。
5つの基本的欲求とは、
愛・所属の欲求
力の欲求
自由の欲求
楽しみの欲求
生存の欲求
DV加害者は力の欲求が強い。力の欲求は承認欲求、達成欲求、競争欲求、貢献欲求の4つの要素がある。この貢献欲求の強い妻と自分に従わせたいという達成要求の強い夫が一緒になるとDV関係が生まれる。
『上質世界』
●私たちは基本的欲求が満たされることで満足していい気分になる。しかし基本的欲求は直接意識できるものではない。意識できるのは自分の気分であり、できるだけいつもいい気分でいたいと思っている。
●基本的欲求を満たすことができるように、自分にとって気分の良いものや、心地よいものをストックしている場所が私たちの心の中にあると選択理論では考えている。これを上質世界と呼んでいる。心の中のアルバムのようなものである。
●この上質世界の上質というのは一般的な意味ではなく、その人個人の願望や理想のこと。上質世界という理想の世界に入っているものを得たいと思いそのイメージにできる限り近くなる行動をしようと私たちは努力をする。
●DV加害者の上質世界に入っているのは不完全な価値観や考え方「べき思想」や「である思想」のことが多い。こういう上質世界は思うようには満たされない。そうして、加害者は、自分の願望や理想と現実とのギャップを埋めるために、怒り行動を使う。それしか知らないからである。脳の中に理想の世界と現実の世界と比べる天秤がと考えるとイメージしやすい。
『加害者に共通する習慣』
●グラッサー博士は人をコントロールしようとすることを「外的コントロール」と名付け、関係を破壊する致命的な7つの習慣があると説明している。批判する
責める
文句を言う
ガミガミ言う
脅す
罰する
褒美で釣る
『なぜDVから逃げられないのか』
●悪いのは自分かもしれない。ダメな自分を叱ってくれるのは愛情。自分さえ我慢すれば。などの感情が絡み合って被害者はDVに無自覚になっていく。『問題解決のきっかけとなる質問』
●被害者が離婚を選ぶとしても「どうしたいの」と最初に被害者の願望を聞くべきである。「どうしたいの」と問われると被害者は、自分はどうしたいのだろうと未来の自身と向き合うことになるからである。そして自分を見つめることで、まず自身の置かれた状況を冷静に把握できるようになる。
●まずは「どうしたの」と話をよく聞く。そしてある程度胸の内を吐き出して被害者が落ち着いてきたら「どうしたいの」と願望を聞き、そのために「どうしたらいいか」を一緒に考えていく。
※どうしたの、どうしたいの、どうしたらいいの、この3つの質問は、被害者が自分を取り戻しDV問題に向き合い解決しようとするきっかけとなる。
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